第957回
宝鋼集団、全社員10%賃下げの狙い
中国鉄鋼最大手の宝鋼集団が全社員を対象に
10%の賃金カットを計画しているようです。
同社は中国国内の鉄鋼需要の落ち込みや
製品価格の下落により業績が急激に悪化、
今年7-9月期にはステンレス事業が赤字に転落、
10-12月期には主力である炭素鋼事業も赤字になる見込みです。
このため同社はまず幹部に限定した賃下げを行った後、
対象を全社員に拡大する方針だそうです。
2008年1-9月の同社の営業コストは
1103億元(1兆6000億円)だったのに対し、
従業員に支払った賃金の総額は33億元(480億円)と
3%にも満たない数字ですので、
全社員の賃金を10%カットしても
コスト削減の効果は限定的です。
しかし、同社経営陣の一番の狙いは全社員に
業績悪化の危機感を共有してもらうことなのだそうです。
日本の製鉄会社がこんなことをしたら、
それこそ労働組合がストライキを起こしたりして
大変なことになりそうですが、
中国の国有企業は中国共産党という
労働組合の親玉みたいな人たちが経営をしていますので、
工会(ごんほい)と呼ばれる中国の労働組合は、
御用組合と揶揄される日本のそれよりも
更に経営陣の言いなりなのです。
こうしたニュースを聞くと、
世界的な金融危機が中国実体経済に与える影響が
いかに大きいか、ということもさることながら、
今の中国の国有企業が社会主義国時代のそれとは
存在意義が明らかに変わっていることを再確認させられます。
社会主義国時代の中国の国有企業の存在意義は、
人民の生活を守り国家を安定させることでした。
このため、会社が赤字だろうがなんだろうが雇用は守られ、
賃金が下がることもありませんでした。
しかし、今の中国はWTOに加盟していますので、
国有企業は外国企業と同レベルまで競争力を高めなければ、
国内の市場を根こそぎ外国企業に取られて、
潰れてしまう可能性もあります。
今の中国の国有企業は、落としても割れない
鉄飯碗(てぃえふぁんわん)ではないのです。
今回の宝鋼集団の全社員10%賃下げには、
競争力を高めてこの世界的な金融危機による
景気の減速を乗り越えなければ会社の未来はない、
という同社経営陣の強い危機感を感じます。
そして、全社員に
「従来の国有企業根性のままでは会社は潰れる!」
という強いメッセージを送って、
危機感を共有しようとしています。
こうした意識の高い経営者がいる限り、
その国有企業は危機を乗り越え、
発展し続けていくのではないかと私は思います。
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