第826回
「山場CM」に似た逆効果な広告事件
9回裏、2アウト満塁。
一打出れば逆転サヨナラの場面で、
打席には4番サード長島。
手に汗握る緊迫した勝負が続き、
カウントが2-3のフルカウントとなったところで
アナウンサーが一言
「あ〜っと、放送時間が来てしまいました。
後楽園球場からさようなら!」。
中継は打ち切られ、画面はいつ流してもいいような
コマーシャルに変わります。
野球少年だった私は、
いつもテレビで見る巨人戦を楽しみにしていたのですが、
上記のような状態で長島のサヨナラホームランを
何度見損なったことか。
実際はスポンサーがおカネを出してくれているお陰で、
家にいながら巨人戦をタダで見られるのですが、
見ている方はそんなことにまで気が回りませんので、
中継が打ち切られて流されたコマーシャルを見て
「この会社の商品は、一生買わない!」
と子供心に誓ったものです。
あれから30年。
この点については、
日本のテレビ業界はあまり進歩していないようで、
最近では「山場CM」と呼ばれるコマーシャルが、
視聴者を不愉快にさせているようです。
「山場CM」とは番組を盛り上げるだけ盛り上げて、
山場に来たところで、「正解はCMの後で」とか、
「続きはこの後すぐ」と言って流される
コマーシャルのことです。
慶応大学の榊教授(社会心理学)の研究によれば、
「山場CM」は86%の人が不愉快に感じており、
「山場CM」で宣伝された商品を
「買いたくない」という人が「買いたい」という人の
10倍以上もいたのだそうです。
「山場CM」は視聴者にコマーシャルを見せるために
テレビ局が考えた苦肉の策だったのでしょうが、
これでは完全に逆効果です。
先日、この「山場CM」に似た
逆効果な広告事件が上海で起きました。
ある日の朝、上海郊外の住宅地で住人が外に出てみると、
夜の内に、駐車されていた全ての車のフロントガラスに、
広告ビラが接着剤で貼り付けられていたそうです。
この接着剤は強力で、ナイフで削るようにしないと、
広告ビラがはがせなかったのだそうです。
この広告ビラは
近所に最近開業したばかりのレストランのもの。
広告ビラには電話番号も書いてありましたので、
当然、このレストランには車のオーナーからの苦情が殺到。
驚いたレストランが調べたところ、
広告ビラを配った担当者が風で飛ばないように
工夫をした結果であったことが判明しました。
仕事をするに当たって工夫をするのは大変良いことなのですが、
風で飛ばないようにすることに神経を集中させすぎてしまい、
接着剤で広告ビラを貼られた車のオーナーの気持ちまでは
推し量ることはできなかったようです。
どこの国でも、人の気持ちがわからない人に、
マーケティングはできないんですな。
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