第785回
「きれいな格好」の乞食
社会主義国家には理論的には乞食はいないはずですが、
今や資本主義国家となり、格差社会を迎えた中国には
たくさんの乞食がいます。
北京の乞食は「きたない格好」をして路上に座り、
通行人がかわいそうに思ってお金を恵んでくれるのを待つか、
もしくは、レストランなどから出てくる人に
「きたない格好」で付きまとって、
嫌がった相手が根負けしてお金をくれるのを待つか、
のどちらかなのですが、どちらにしても
「きたない格好」を一つの武器にしていました。
それが、ここ数ヶ月、路上で
「きたない格好」をした乞食を見ることがなくなりました。
どうも北京市当局が来年にオリンピックを控えて、
街のイメージを損ねる「きたない格好」をした乞食は
無条件で拘束できるように条例を改正し、
彼らの街からの一掃を開始したようなのです。
そこで最近現れたのが「きれいな格好」をした乞食です。
彼らは「きれいな格好」をしていますので、
一見、普通の人と変わらないのですが、
街を歩いている人に
「請問一下(ちんうぇんいーしゃー、
ちょっとお伺いします)」と
道を尋ねるような感じで声をかけます。
そして、立ち止まった人に
「私たち何日も何も食べてないんです」とか、
「田舎から出てきたんですが、
故郷に帰る電車賃もないんです」などととうとうと語って、
相手がかわいそうに思ってお金をくれるのを待つのです。
私も街で声をかけられたことが何回かあるのですが、
それは若い女の子2人組だったり、
おばさんと男の子だったり、といろいろです。
普通のこざっぱりとした洋服を着ており、
お風呂にも入っているような清潔な感じですので、
彼らはとても乞食には見えません。
以前は「きたない格好」が一つの武器になっていたのですが、
「きれいな格好」では憐れみを請うことも、
嫌がらせをすることもできませんので、
一生懸命言葉で説明しなければならないのです。
「上に政策あれば、下に対策あり」の国ならではの
「きれいな格好」の乞食。
それだけの知恵と実行力があれば、
かたぎの仕事をしても十分食っていけると思うのですが、
やはり「乞食は3日やったらやめられない」と言いますから、
もしかするとかたぎの仕事よりも
ずっと儲かるのかもしれません。
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