第768回
国有企業の国際競争力
先日、山西省の大同に出張してきました。
大同には「世界遺産・雲崗の石窟」があり、
観光都市としても注目されつつありますが、
元々は中国随一の石炭の産地でした。
私は丸紅時代、石炭貿易の仕事をしていましたので、
何回か大同炭鉱に行ったことがあるのですが、
北京に駐在した当初、同炭鉱関係者から
従業員が26万人もいると聞いて
ビックリしてしまいました。
当時、大同炭鉱は年間3,000万トンの
石炭を生産していたのですが、
私が東京本社で担当していたオーストラリアの炭鉱は
年間生産量300万トンで従業員は700人。
生産量を大同炭鉱に合わせるために
従業員数を10倍しても7,000人ですから、
大同炭鉱はオーストラリアの炭鉱の
40倍弱の人数で石炭を掘っていたことになります。
正確には、この26万人という従業員数は、
炭鉱が経営する学校の先生、
炭鉱が経営する病院の医者、看護婦など、
非採炭部門の人たちも全て含めての数字ですので、
採炭に従事している人数はもっと少ないのですが、
それにしても、オーストラリアの炭鉱の
40倍もの人数を雇っていては、
いくら中国の人件費が安いと言っても、
赤字が出るのは当たり前です。
社会主義国家における
企業の第一の使命は利益をあげることではなく、
雇用の受け皿となることですから、
中国政府は長年にわたり
国有企業の赤字を補填し続けていましたが、
もう支えきれない、ということで始まったのが、
1990年代後半の国有企業改革という名の大リストラです。
大同炭鉱でもその当時、従業員が1万人単位で
下崗(しゃーがん、一時帰休)させられていました。
こうした荒療治により何とか息を吹き返し、
中には株式市場に上場するものまで現れ始めた
中国の国有企業ですが、
実態は中国政府が規制によって
市場を独占させてくれるから好業績を保てるだけであって、
外国企業とまともに戦って
勝てる実力があるとはとても思えません。
それは当社の合弁相手である
国有企業・北京シノトランスの従業員を
見ていてもよくわかります。
彼らの多くは「今までと同じことやってて、
それで食ってけるなら、
何も新しいことにチャレンジして苦労してまで、
会社の業績を伸ばす必要ないんじゃない」
と考えています。
毎日会社に来さえすれば、
働かなくても給料日になれば給料がもらえた
古き良き鉄飯碗(てぃえふぁんわん、
落としても割れない鉄の茶碗=永久に食っていける)
の時代に慣れ親しんだ
40歳より上の世代が定年退職するまでは、
中国の国有企業が真の国際競争力を持つことは
ないのではないか、と思います。
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