第694回
「物権法」成立が意味するもの

今年の全人代で、企業所得税法案と並んで
注目されたのが物権法案です。

物権法とは、私有財産の保護を定めた法律です。
2004年の憲法改正で
「合法的な私有財産は侵されない」
と憲法に明記されたのに続き、
今回の物権法では、
「公有制を主体とする原則を堅持する」としたものの、
私有財産に関しては
「私人の合法的貯蓄、投資やその収益は
法律の保護を受ける」と規定しました。

私たち日本人から見れば、
私有財産が法律で保護されるのは当たり前のことなのですが、
今までの中国では、私有財産でも国家が
「ハイ、あなたのこの土地は明日から国家が使います」
と言われたら、何の抵抗もできなかったのです。

中国は共産主義国家ですから、
元々土地は全て国家のものですが、
今まではその使用権ですら
保護されていませんでした。
中国には立ち退き命令はあっても、
立ち退き交渉は存在しなかったのです。

このため、
全線開通するのに何十年もかかった
東京の環状八号線と違って、
北京の四環路や五環路は、
ほんの数年できれいな輪っかの
環状道路が完成するのです。

私有財産が保護されないことが、
中国の経済発展に及ぼした影響は、
計り知れないものがあります。

しかし、その一方で、地方政府によっては、
農民から土地を無償で取り上げて、
不動産開発をしたり、
工業技術開発区を作ったりするところが出てきました。
土地をタダで取り上げられた農民は、
おまんま食い上げになってしまいますので、
北京まで来て陳情したり、
暴動を起こしたりします。
このため、この問題は社会の安定を損なう
大きな社会問題となっていました。

今回の物権法では、農地の収用には
必ず補償金を支払うことが規定されたほか、
農地の使用権の有効期間を30年とし、
農民はその使用権を譲渡、交換したり、
満期後も延長したりできるようにしました。

しかし、一部の共産党幹部は
「物権法は「社会主義の公共財産は神聖にして不可侵」
と定めた憲法12条に違反している」として
物権法の成立に反対しました。
保守派から見れば、「全民所有制」と言われる財産の公有制は、
社会主義経済の根幹であり、
この部分で妥協すれば、
延いては共産党の存在意義を問われることになる、
ということなのでしょう。

ただ、経済の実態は
そんなことを言っていられる状態ではなくなっています。
中国共産党は法律を作って国民を律するのではなくて、
実態に合わせて
法律を作っていかざるを得ない状況にあるのです。


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2007年3月30日(金)

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