第673回
貯蓄大国、中国

中国国家統計局が先日発表したところによれば、
2006年の中国のGDP(国内総生産)伸び率は10.7%で、
2003年から4年連続の二ケタ成長となりました。
元々の中国政府の目標は、8%の成長でしたので、
それを大幅に上回る結果となりました。

この高成長の原動力となったのが投資と輸出でした。
中国政府は不動産開発を始めとした過剰投資を抑制し、
景気の過熱を防ぐために、
引き続きマクロ調整を行う予定であり、
2007年の成長率は9%台に落ち着く見込みとなっています。

これに対し、2006年の消費者物価指数の伸び率は1.5%に止まり、
2005年の1.8%に引き続き、低い水準に収まりました。

この状態は簡単に言えば、
給料が10.7%上がったのに、
物価は1.5%しか上がっていないので、
差し引き9.2%はまるまる国民の手元に残る、
ということです。

こういう状況下では、
国民は豊かになっていくのを実感できますので、
生活の困窮を理由に、
現政権の転覆を企てるような輩は出てこず、
また出てきたとしても、
民衆は付いていきません。

現在の状況は「体制の維持」という観点から見れば、
正に理想的な状況なのです。

ただ、この差し引き9.2%、
中国の人たちは使ってしまうことはせず、
しっかりと貯蓄するようです。

以前、中国が社会主義国家だった時代には、
「親方五紅星旗」でそれこそゆりかごから墓場まで
単位(だんうぇい)と呼ばれる国営企業や国家機関が
面倒を見てくれますので、
わずかな現金収入を全部使ってしまっても、
将来に不安はありませんでした。

しかし、資本主義国家となった今、
中国では年金や医療保険はあるものの、
基本的には「老後も病気も自己責任」
ということになっていますので、
いざという時の蓄えは多いに越したことはありません。

このため、中国の可処分所得に占める貯蓄の比率、
いわゆる貯蓄率は46%と、
往年の貯蓄大国ニッポンのピーク時を
さらに上回っているそうです。
そういったことで、中国は高度経済成長をしても、
カネは消費まで回らず、
消費者物価指数の伸び率は低いままなのです。

中国は今、「世界の工場」から
「地球上に残された最大且つ最後の巨大市場」へ
脱皮をしつつあります。

しかし、中国の内需が拡大し、
本格的な「消費大国」になるためには、
まずは「貯蓄大国」になる必要があります。
そして、国民が「もう十分安心」と言えるぐらいの蓄えを持ち、
収入の増加が消費に直結するようになった時から、
中国は内需を原動力とした、
本当の意味での高度経済成長期を迎えるのです。


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2007年2月9日(金)

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