第652回
中央集権化する中国
中国は一見、共産党一党独裁の
中央集権国家のように見えますが、
実は、共産党内部での地方分権が進んでいます。
これだけ大きな国を治めるには、
中央政府が地方政府に対して、
細かいことまでいちいち指示を出すことは
事実上不可能です。
そこで、大方針は中央が決めて地方に通達を出し、
地方は中央の方針を実現するべく
大きな権限を持って政策を実行していく、
という体制が採られています。
こうした体制がきちんと機能すれば、
地方の経営は地方の幹部に任せておいてもよいのですが、
一部の地方幹部は、自分がその地方の
「殿様」にでもなった気分で職権を濫用し、
違法なことをしたり、私腹を肥やしたりしているようです。
こんなことは、地元に住む住民なら
誰でも知っていることなのですが、
幹部の不正を暴いたのが自分だ、
なんてことがバレたりしたら、
後で何をされるかわかったものではありません。
ですから、住民は見て見ぬふりをするか、
自分もそのおこぼれにあずかろうと、
権力の中枢に擦り寄るかするのです。
この国では「上に政策あれば、下に対策あり」が
生き延びるための処世術ですから、
誰も「上の政策を変えよう」などとは思わないのです。
こんな状況ですので、
「殿様」きどりの幹部がいる地方では、
溜まりに溜まった住民の不満は一触即発状態です。
このため、最近の中国では、
ほんのささいなことが原因で、
数万人規模の暴動が発生してしまうのです。
中央政府はこの状況を打開するために、
中央集権化を始めました。
まず今回、共産党中央は、
北京、上海、天津の3直轄市の規律検査委書記を、
全て中央からの派遣にしました。
規律検査委書記とは党の役職であり、
地元政府の汚職などを調査する役割を担っています。
さらに、広東省、浙江省、安徽省、
河南省、山西省、福建省の6省の規律検査委書記も、
中央からの派遣か他の地方からの異動としました。
これは「1カ所での在任期間が長い規律検査委書記は、
地方政府の幹部との間に癒着やしがらみが発生し、
汚職調査の手が緩くなる」という指摘によるものです。
実際、最近発覚した地方政府が舞台となった汚職事件では、
地元の規律検査委はほとんど機能しておらず、
結局、党中央の規律検査委幹部が現地に乗り込んで調査する、
というケースが多かったそうです。
この他にも、従来は各地方の
高等人民法院(高裁)に与えられていた
死刑判決の権限を剥奪し、
2007年1月からは、必ず北京の最高人民法院(最高裁)が
妥当性を審査してから死刑判決を下すことになるなど、
地方の権限を中央に戻す動きが活発になっています。
いくら暴いても次から次へと出てくる地方の汚職事件。
業を煮やした中央政府は、
地方の幹部による地方自治を諦め、
中央集権国家への道を歩み始めたのです。
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