第631回
「自腹消費社会」になりつつある中国

以前の中国では、国有企業で偉くなれば
会社の経費は使い放題でした。
国有企業の幹部の月給は数千元(数万円)ですが、
領収書さえあれば接待費は青天井なので、
接待という名目で連日のように
高級レストランに行って食事をする人が
たくさんいました。

このため、北京にはいわゆる
「接待用レストラン」というのがいくつもあります。
こういうレストランの料理は
たいしておいしくもないのですが、
お会計をすると
目ん玉が飛び出るような金額を請求されます。
にもかかわらず、「接待用レストラン」の駐車場は、
連日、黒塗りのベンツやアウディでいっぱい、
大繁盛といった感じです。

料理の味よりなにより、
「このレストランで接待した」
という事実が重要なのです。

私が丸紅の東京本社で働いていたとき、
時々お客さんの接待で
銀座に飲みに行くことがありました。
上司に連れられて入ったスナックはカウンターだけで、
いるのは何の変哲もないおばさんが1人。
そこでウイスキーを2-3杯飲んで、
お会計をしたら3人で10万円。
私はいつも「自腹じゃ絶対来ないな」
と思っていたのですが、
これも「お客さんを銀座で接待した」
という事実が重要だったのでしょう。

しかし、その後中国では
国有企業改革や汚職摘発の強化により、
国有企業の幹部でも「接待費使い放題」
というわけにはいかなくなってきました。
そうした人たちに代わって
消費の担い手として台頭してきたのが、
個人企業の老板(らおばん、オーナー社長)です。

個人企業の老板は金持ちではありますが、
支払うおカネは会社のカネであっても
自腹と同じですから、国有企業の幹部のように
「どうせ会社のカネだから」という考え方はしません。
となると、自ずとモノやサービスの
価値に対する評価の基準も厳しくなります。
「本当にその値段に見合う価値があるのか」
ということを常に問われるようになります。
「日本人経営の店だから値段が高くても仕方ない」
とは考えてくれないのです。

「自腹消費社会」になりつつある中国。
その中国で日本人がモノやサービスを売るに当たっては
「高い値段を取るだけの価値を
お客さんに感じてもらえるのか」
ということを常に考える必要があるのです。


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2006年11月3日(金)

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