第536回
陳情を繰り返す失地農民

農民は、耕す土地と健康な体があって、
初めて収入を得ることができるのですが、
中国では、耕す土地を持たない
「失地農民(しーでぃーのんみん)」が
4,000〜5,000万人おり、
今でも毎年100万人のペースで
増え続けているといいます。

土地を失う農民は、
農村の都市化や工業化の進展の中で、
目先のカネ欲しさで
土地を手放してしまうようなのですが、
一部の地方では、
「この土地は元々国家のものだから」
という理由で、地元の人民政府が、
農民に十分な補償も与えず、
強制的に土地を収用してしまうそうです。

中には、役人が開発業者と結託して、
職権で立退き料を不当に引き下げ、
その開発業者の土地買収コスト節減分の一部を、
賄賂として受け取る、
というケースもあるようです。

ただでさえ貧乏な農民相手に、
なんちゅうあこぎなことを...。

土地を取り上げられてしまった農民には、
もう、収入の道がありません。
普通の人は、街に出て、
「民工(みんごん)」
と呼ばれる土木作業員になるか、
犯罪に手を染めるかするのですが、
どうしても納得がいかない人は、
直訴という手に出ます。

ただ、直訴といっても、
地元の人民政府は
土地を取り上げた張本人ですので、
そんなところに直訴しても、
握りつぶされるどころか、
拘束されて何をされるか
わかったものではありません。

となると、彼らは地元の人民政府よりずっと上、
北京の中央政府に直訴するしかないのです。

北京には、日本の最高裁に当たる
最高人民法院をはじめ、
公安部や国務院などの各機関に、
「信訪接待室(しんふぁんじえだいしー)」
という、直訴を受け付ける場所があります。
地方から来た直訴者は、
これらの「信訪接待室」に行って、
地方政府の横暴を訴えるのです。

現在、北京にいる地方からの直訴者は、
2-3万人と言われています。
彼らの多くは、北京南駅付近に形成された
「直訴村」と呼ばれる集落に住んでいました。

ここは、近くに「信訪接待室」が多く
毎日の陳情に便利なこと、
都市再開発に伴い
引っ越してしまった地元住民の空家が
たくさんあったことなどから、
2001年ごろから直訴者が
多く住み着くようになったそうです。

中国の年間直訴件数は、約1,000万件。
しかし、そのうち解決されるのは約2万件、
解決率はたったの0.2%です。

針の穴に駱駝を通すような絶望的な解決率ですが、
「どう考えても自分が正しい」
と信じて疑わない農民たちは、
その0.2%に入るべく、
今日も「信訪接待室」に通って、
陳情を繰り返すのです。


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2006年3月27日(月)

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