第431回
「政治的煽動文書」

税関の役割は、関税の取り立てだけではありません。
国内に持ち込ませてはいけないものを、
水際で食い止めるのも、税関の重要な仕事の一つです。
通常、各国が国内への持ち込みを禁止している物品は、
麻薬やワシントン条約抵触物などなのですが、
中国ではそれらに加えて
「政治的煽動文書」というのが入ります。

以前、私は、日本に行った時に、
「ケ小平、死をも厭わない政治家」という本を買って、
北京に持って帰ってきたのですが、
北京空港の税関で没収されてしまいました。
内容的にはケ小平を絶賛している本なのですが、
日本語が分からない税関職員には、
「ケ小平」「死」「厭」「政治家」
という漢字しか目に入りませんので、
ケ小平同志をおとしめる、とんでもない内容の本だ、
と思われてしまったのかもしれません。

先日、日本から送られてきた
大連日本人学校向けの社会の副教材の中に、
中国本土と台湾を色分けした地図がある事を
大連税関が発見し、
副教材を没収すると共に、
大連日本人学校に対して罰金の支払いを命じた、
という事件が起きました。

中国で発行される地図の台湾の部分は、
本土と同じ色になっているばかりでなく、
「福建省」や「広東省」などと同列で、
「台湾省」と書かれています。
一般の中国の人たちは子供の頃から、
そういう地図で勉強しますので、
「台湾は中国の1つの省である」
と信じて疑っていません。

そんな所に、台湾が
あたかも独立国家の様な位置付けで描かれている地図が
何かの間違いで流出してしまったら、
「もしかして、俺たちは今まで騙されていたのか!」
と思う人が出てきかねません。
中国政府からしてみれば、
台湾と中国本土が違う色の地図、なんていうのは、
完全に「政治的煽動文書」なのです。

日本からの引越荷物でも、パッキングリストに
「地図」とか、「地球儀」とか書いてあったら、
ほぼ自動的に没収となります。
中国政府は台湾問題に対しては、
そのぐらいナーバスになっているのです。

そんな状況にも関わらず、当社では時々、
台湾の書類の日本語訳を請け負ったりしています。
台湾の正式書類の年号は西暦ではなく、
みんな「中華民国九十三年○月○日」という様な
書き方になっています。
「台湾省」に慣れている私は、
「中華民国」という文字を見るだけで、
結構、ドキドキしてしまいます。

こうした原稿は、メールで送られてきます。
税関では「政治的煽動文書」を
厳しく取り締まる中国政府ですが、
メールの添付書類まではチェックできない様です。


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