第211回
「退勤のバスが出ちゃうんで、さようなら」
だいたいが、中国には残業や休日出勤をする習慣がありません。
元々、国有企業の最大の目的は、
利益を上げる事ではなくて、雇用を生み出す事でしたので、
常に過剰人員を抱えていました。
普通なら1人でこなせる仕事を、3人ぐらいでやりますので、
残業が発生する訳もありません。
しかし、国有企業の赤字垂れ流し体質が、
中国経済の成長の妨げになる事が分かり、
国有企業は従業員を解雇してでも、
ちゃんと黒字を出さなければならない事になりました。
これを受けて、多くの国有企業は大幅な人員整理を行い、
人件費の削減を行いましたが、
人が減った分仕事が減る訳でもないので、
従業員1人当たりの仕事の負担は大きくなりました。
しかし、1日8時間しか働かない、
という習慣は一朝一夕には変わりません。
以前、私が丸紅北京支店にいる時に、
石炭を積む予定の船が既に中国の港に着いているのに、
石炭が港に揃っていない、という大問題が発生しました。
日本のお客様は石炭が予定通りに入ってこないと、
工場の操業に支障を来たしますし、
船も港に待たせておくと、膨大な金額の滞船料が発生します。
私は輸出者である中煤公司の担当者と、
善後策について電話で話し合っていましたが、
なかなか満足出来る回答は得られません。
今日中に何らかの対策を打たないと、大変な損失が出る、
という状況だったのですが、
中煤公司の担当者が突然、
「柳田さん、退勤のバスが出ちゃうんで、さようなら」
と言って、一方的に電話を切ってしまいました。
お〜い、勘弁してくれ〜。
どんなに大変な問題が起こっていようとも、
1日8時間一生懸命働いて解決しなければ、
会社にいくら損失が出ても私のせいではない。
非常に典型的な国有企業従業員の考え方です。
もちろん、これは彼の仕事に対する責任感の問題であり、
国有企業にも責任を持って、
問題が解決するまで残業する人もたくさんいると思います。
しかし、全体的に見れば、
やはり、日本人のサラリーマンの方が、
仕事に対する責任感は強いですし、
仕事をやり遂げる為に残業や休日出勤も厭わない、
という人の割合が多いのではないでしょうか。
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