第95回
自分の金だったら絶対来ないな

バブルの時に丸紅に入社した私は、
接待のお供で銀座のクラブに連れて行ってもらう事もありました。
新入社員の私のお仕事は、
お客様の帰りのタクシーを確保する事とお会計です。
当時は、携帯電話が普及しておらず、
お店のピンクの電話から無線タクシー会社に電話するのですが、
掛ける人が多く、なかなかつながりません。

腱鞘炎になるんじゃないかと思うほど
ダイヤルを回してもつながらない場合は、
走って外に出て、タクシーチケットを使えるタクシー会社の
空車のタクシーを探します。
ただでさえ空車のタクシーが少ないバブル期の銀座で、
特定のタクシー会社の空車を探すのは至難の業です。

どうにかこうにか、タクシーを確保して、
お客様をお送りした後はお会計です。
何の変哲も無い雑居ビルに入っていて、
60歳に手が届くか、というママさんが一人でやっているお店でも、
お会計をしてみると一人5万円ぐらいの計算になっています。
ウイスキーを何杯か飲んで、
おばさんとおばあさんの間ぐらいのママさんと
おしゃべりするだけで5万円です。
どこに5万円に見合う付加価値があるんでしょう。
付加価値があるとすれば、
「お客様を他でもない「銀座」でご接待申し上げた」
という事実だけです。

毎回「ま、会社の金だからいいけど、
自分の金だったら絶対来ないな」
と思いながら支払いをしていましたが、
案の定、バブルがはじけて接待需要が少なくなると、
隆盛を極めた銀座のクラブにも閑古鳥が鳴き、
廃業に追い込まれるお店もたくさん出た様です。

これと同じ事が、北京のレストラン業界にも起こっています。
接待需要が減少し、
自分のお金で食べる個人を相手にしなければならない場合、
安くておいしくて楽しいレストランでないと
お客さんは来てくれません。
接待市場よりずっとシビアな競争が生まれます。

しかし、競争は厳しくなっても、
中国外食産業の潜在市場は巨大です。
現状、普通の会社員は会社が終わると家にまっすぐ帰って、
晩ごはんを作って食べます。
夫婦共働きの世帯が大部分を占める中国では、
先に家に帰った方が晩ごはんを作る様です。
今後、経済発展に伴って、人々の収入が増えると同時に、
一人一人の仕事の量が増えてくると、1日の仕事に疲れ果て、
「外食にしちゃいましょうか」とか
「何か買ってきて家で食べましょうか」となり、
外食やテイクアウトの需要が高まる事が予想されます。
競争が激しくても参入する価値はあるのではないでしょうか。


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