第78回
広がる噂、隠す政府

今回のSARS騒ぎでは、政府の発表とは別に、
インターネットや噂で様々な情報が飛び交いました。
まず、SARS防止の漢方薬のレシピ、
それから、喫煙がSARS感染防止になるという話、
北京のどこのビルの何階に感染者が出たという情報、
北京から他の地域に感染地域を広げない為に、
事実上北京を封鎖する、という情報などなど。

特にインターネットで感染者が出た、と名指しされたビルでは、
テナントの解約や
ショッピングモール、レストランの利用客の減少を恐れ、
徹底的な再発防止対策をした様です。
私も引越の仕事で北京の中心部にある、
インターネットで名指しされたビルに行きましたが、
引越の作業員はマスクを着用しないと中に入れてもらえず、
長い押し問答の後に、
ようやくマスクを分けてもらい中に入った事がありました。
マスクをしながら、
激しい引越作業をする作業員が苦しそうで可哀想でした。

一方で、北京発安徽省合肥行きの飛行機の機内で、
ある乗客がスチュワーデスに
「私はSARSに感染している」と言って、
機内がパニックになる、という事件も起きました。
飛行機は離陸前だったので、
その乗客は即刻隔離され、SARSの検査を受けました。
結局、悪い冗談だった事が分かり、飛行機は離陸したのですが、
その乗客は乗せてもらえませんでした。
この時期、その冗談は、文字通り洒落になりません。

中国政府はこうしたインターネット情報や噂が広まり、
人々がパニック状態に陥る事を恐れて、
発症者隠しをしたものと思われますが、
今回、それが発覚した事により、
その目論見は完全に裏目に出ています。
中国のテレビ、ラジオ、新聞など、全てのメディアは、
政府によりその内容を統制されています。
人々が入手する情報の大部分は、
政府の発表に基づくものしかないのです。

それが今回の発症者隠しで、
今まで信じていたものを覆されたお陰で、
人々は完全に疑心暗鬼になっています。
発覚以降は、やはり政府など信じられぬ、
自分の身は自分で守らねば、
という意識が非常に強くなっています。

胡錦涛体制が恐れているのは、
WHOでも外国からの圧力でもありません。
何より恐れているのは、国民の政府に対する不信感です。
そういった意味で、SARSに限らず、
中国政府は今後、積極的な情報の開示により、
国民の信頼を回復していく必要に迫られています。


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