第464回
言わないのも作戦
僕は、弁護士なので、
裁判(訴訟)の依頼を受けることが多いわけです。
裁判は、一方が主張して、
相手方が反論するという形で進んでいきます。
裁判の当事者は、争っている、
即ち、けんかしている状態にあるわけなので、
相手方が主張していることについては、
全ての経過を含めて徹底的に反論したいという人の方が多いです。
そこで、「どうしてうちの先生はあの主張をしてくれないのか?」
「この証拠を出してくれないのか?」
と思うこともあるかもしれません。
しかし、相手の請求が法律上全く通る見込みがないのであれば、
それでよいとは思いますが、
相手方にも弁護士が付いています。
ろくに根拠はないけれども、
当たらずとも遠からずというような請求もあります。
法律的に見たら、こちらにも、不利な面がある
という場合もあります。
裁判は、裁判を起こした方が、
一定の決められた事項を主張し、
証明する責任があります。
したがって、訴えられた方は、相手方の主張を否定し、
裏付けがないということだけ言っていればよいのです。
だから、いろいろ新しい事実を持ち出して、
相手が嘘吐きだということまで言う必要はありません。
余計な事実や証拠を出すと、
それに絡めて相手方が知らなかった
相手方に有利な事実や証拠に気づかれてしまうおそれもあります。
それから、裁判の本筋に関係ないところの争いになってしまって、
しかも、そちらの争いでは
こちらが事実と違った主張をしてしまって、
裁判官の心証を悪くしてしまう可能性もあります。
何でも裁判官に言っておきたいという気持ちはわかりますが、
裁判では言わないことがいいこともある
ということを知っておいてください。
ただ、弁護士によっては、怠慢で主張をしなかったり、
証拠を出さなかったりする人もいるようなので、
その辺の判断はなかなか難しい面もあります。 |