第328回
相続で、実印を悪用される
前回、実印と三文判の違いを説明しましたが、
実印は、相続のときに悪用されるケースが多いのです。
相続のときには、不動産の登記名義を変えるとき、
預金を下ろしたり、
株を相続人名義にしたりするときなど、
実印が必要になります。
このときに、相続人である兄弟の1人が、
父親の財産を管理しているときに、
他の兄弟に対し、
財産管理上必要だからといって、
実印を預かってしまうケースがあるようなのです。
そして、お父さんが亡くなったときに、
預かっていた実印で、
遺産の放棄書や遺産分割協議書に印鑑を押して
不動産などを自分名義にしてしまうのです。
それから、他の遺産を分けるから、
あるいは、不動産を売ったら分けてあげるから、
などと調子のよいことを言って、
遺産の放棄書や遺産分割協議書に
実印を押させて不動産などを自分名義にしてしまう
というケースもあります。
前回説明したとおり、
実印が押してあると、それは内容を理解して、
自分の意思で押したと推定されてしまいますから、
裁判では、かなり不利になってしまいます。
実印ばかりでなく、三文判でも、
印鑑を預けたりするのは、やめた方がいいです。
それから、兄弟だからと言って、
実印を押してくれと言われたら、
すぐに押してしまうのではなく、
押す書類の内容をよく検討してから、
押すようにしてください。
押してから、弁護士に、
「このような書類に印鑑を押してしまったのだけれども、大丈夫か」
と相談されても、
弁護士としては「押さない方が良かった」
という回答をするだけで、元に戻すことはできません。
同じ相談料を払うのですから、
押す前に「このような書類に印鑑を押してよいか」
と相談していただければ、
「どの遺産を分けるとか、
売却代金のうちいくら分けるなどの文章を入れてもらえなければ、
印鑑を押さない方がよいですよ」
などとアドバイスすることができます。
|