弁護士・高島秀行さんが紹介する
事前に備える賢い法律利用方法

第188回
相続を予め放棄しても無効です。

相続が発生したときに、
遺産が借金などのマイナスの財産しかない、
あるいはマイナスの財産が多い場合に、
その借金を引き継がないようにするのが
相続の放棄という制度です。

相続の放棄は、相続が発生して、
相続を知ったときから
3ヶ月以内に家庭裁判所に
書類を提出して行なう必要があります。
マイナスの遺産が多いという場合でなくても、
相続人の中には、
自分は遺産を要らない
という人もいますから、
そういう場合には、
相続の放棄をすることができます。

これらは、いずれも
相続が発生した後に放棄する話しです。
しかし、世の中には、
将来、父親あるいは
母親が亡くなったときに、
遺産をどうするということを
相続人となる兄弟で、
予め決めておくことがあります。

例えば、相続が発生したときに
遺産分割で揉めないように、
将来相続が発生したときには、
長男が全部遺産を相続し、
妹、弟は相続を放棄する
という合意をしておくわけです。
日本の法律では、
「契約自由の原則」が取られているので、
当事者が納得すれば、
事前に将来の遺産について
合意をしておくことも有効にみえます。
しかし、過去の判例では、
相続が発生しておらず、
不確定な時期に、
相続を放棄しても、
無効だとされています。

だから、相続発生前に、
相続を放棄するという
合意書を交わしてしまったとしても、
実際に相続が発生した後に、
裁判で遺産の分割を求める
ということは可能です。
もちろん、将来の相続発生前に
合意書を交わしておいて、
それに従うというのも、
1つの選択です。

事情によっては、
裁判で有効となる可能性もあります。
ただ、相続の事前放棄の合意書を
交わしたから、
遺産を全くもらえなくなる、
あるいは争いようがなくなる
というわけではないのです。


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2006年9月7日(木)

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