弁護士・高島秀行さんが紹介する
事前に備える賢い法律利用方法

第183回
あげると言ってしまっても

「物をあげる」「お金をあげる」という気前のよい人は
世の中には結構いるものです。
しかし、調子に乗って、
「あげる」と言ったものの、
やはり惜しくなってしまうということもよくあるようです。
「あげる」というのは、法律上は、
「贈与契約」で、相手が「もらう」と言えば、
口頭でも、契約は成立します。

普通の契約では、契約が成立してしまうと、
片方が、一方的に契約を取り消すことはできません。
自由に契約が取り消せるとすれば、
契約した意味がなくなるから、当然です。

それでは、
一度「あげる」と言ってしまったら、
その物やお金をあげなければいけないかというと、
実は、法律(民法)は、
そうはしていません。
書面によらない贈与は、
自由に取り消せることとなっています(民法550条)。
贈与は、無償で、
贈与者の好意でなされるもので、
他の契約よりも、
その拘束力を緩めてもよいと
法律は考えているのです。
口約束は軽い気持ちでなされやすい
ということも考慮されています。

したがって、
口で「あげる」と言った場合には、
後から、「やっぱり止めた」
ということが可能なのです。
しかし、口約束で、
「あげる」と言った場合でも、
実際に物やお金を渡してあげてしまうと、
もう取り戻すことはできません。 
また、書面で、
「あげる」と約束した場合も、
取り消すことはできません。
だから、もらう方にしてみれば、
物やお金をくれると言われた場合には、
紙に書いてもらうか、
その場でもらってしまうのが
よいということとなります。

ただ、いくら法律上、
口で「あげる」と言っただけでは、
後から取り消せることとなっていても、
「あげる」と言っては取り消し、
「あげる」と言っては取り消し、
ということを繰り返せば、
周囲の人から信頼を失ってしまいます。
贈与を取り消す場合には、
そういうことも含めて、
自分の損得を考えましょう。


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2006年8月22日(火)

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