弁護士・高島秀行さんの
読んだらわかる訴訟の話

第74回
訴訟を予告する制度ができた

訴訟の依頼を受けて、訴えを起こすと、
相手から「いきなり訴訟を起こしてきて」などと
言われることがあります。
それだけ「訴訟沙汰」「裁判沙汰」は
嫌われているのでしょう。

しかし、訴訟は、
トラブルの解決のための手段であり、
訴訟を起こすかどうかは、
起こす側の判断に任されていますから、
訴訟を起こすなどと予告しないのが普通です。

トラブルを抱えていて、
解決していないという場合には、
訴訟がトラブル解決の手段である以上、
突然、予告なしに、
訴訟を起こされても仕方がないのです。

しかし、平成16年4月から施行(適用)される
民事訴訟法では、
訴訟することを予告する制度を設けました。

ただ、この訴訟予告制度は、
訴えられる側(被告)に
心構えを持たせるための制度ではありません。

訴訟予告制度は、訴訟を起こす前に、
訴訟を起こすのに必要な事項を
相手あるいは第三者に質問したり、
証拠を提出してもらったりするための制度です。

医療過誤など、
事故に関する損害賠償請求をする場合、
重要なカルテや事故の報告書などは、
相手が持っていたり、
警察や役所が持っていたりします。

これまで、前回説明した証拠保全によって
これらの証拠を手に入れるという方法を
取っていましたが、
証拠保全は、相手が証拠隠滅したり、
時間が経過すると
証拠がなくなってしまったりするおそれがあるような場合にしか
認められません。

とすると、
警察や役所が証拠隠滅を図ったりすることはないので、
訴訟の帰趨を決める重要な証拠なのに
訴訟を起こすまで見ることができない
ということになってしまいます。

だから、
この訴訟予告制度を設けることによって、
訴訟を起こす前に、
重要な証拠を手に入れることを可能にしたのです。

この訴訟予告をされた方も、
訴訟予告に対し、回答をすれば、
相手や第三者に対し質問をしたり、
証拠を提出してもらったりすることが可能となります。

こうすることによって、
訴訟を起こす前に、
当事者双方が事情をよく把握できるので、
訴訟が早く適切に行なわれることが期待できます。

訴訟予告制度は、以上のような制度なので、
訴訟を起こすときは
必ず相手に予告しなければならないわけではありません。
だから、相手から突然予告もなく
訴訟が起こされるのはこれまでどおりです。


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