弁護士・高島秀行さんの
読んだらわかる訴訟の話

第59回
訴訟に勝つための作戦集13−苦しいときは戦線拡大

前回、勝ち筋はシンプルに
という説明をしました。
では、負け筋や苦しい事案では
どうすればよいでしょうか?

みなさんの予想通り、
答えは戦線拡大です。
戦う場所を多くすることは、
勝つ可能性を増やします。

相手から訴えられた裁判に勝つには、
いくつかの争点のうち、
1つでも自分の主張が通ればよいのです。
だから、負け筋や苦しい事案では、
通る可能性のある主張を
全部言ってみるという方法も有効なのです。
争点を拡大することにより、
相手の弱い部分が出てくることもあります。

また、戦線を拡大し、
裁判を複雑にすれば、
その対応に時間や労力を割かなければなりません。
相手が、こちらの主張の全部に対し、
反論し、反証していく時間や労力を考えたら、
請求を減額してもよいと
根負けする場合もあります。
裁判官に判決を出すのが難しいと思わせることができれば、
裁判官が和解を勧めてくれることにもなります。

このように負け筋の事件で、
戦線拡大は有効な方法の一つです。
しかし、ただやみくもに戦線拡大をすればよい
というものでもありません。

相手の弁護士や裁判官が見て、
「過去の判例や法理論からこの主張は正しいかもしれない」
と思わせるくらいきちんとした主張で
戦線拡大をしなければなりません。

裁判官や相手の弁護士に、
負け筋なので苦し紛れにしている主張
と思われてしまったら、
裁判官には相手にされないし、
相手の弁護士にも、簡単に反論、
反証をして勝てると思われてしまいますから、
相手が請求を減額してくれたりしないからです。

意味もなく、戦線拡大をすると、
変な主張をして訴訟の遅延を図ろうとしているなどと、
裁判官や相手の弁護士から信用を失ってしまい
逆効果になる場合もあります。

また、戦線拡大することにより、
どの主張にも自信がない、
即ち、こちらが自分の方を不利だと考えているから
たくさんの主張をしていると
わかってしまう場合もあります。

苦しいときには、
戦線拡大は有効な方法の一つなのですが、
実際にやるのはかなり難しいです。
それをきちんとできるかは、
ひとえに代理人である弁護士の能力にかかっています。


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