弁護士・高島秀行さんの
読んだらわかる訴訟の話

第55回
訴訟に勝つための作戦集9−自分からあまり主張しない

相手が訴訟を起こしてくるときに、
あまり調査や準備をしないで、
訴訟を起こしてくるケースがあります。
あるいは、代理人の能力不足で、
必要な主張が抜けているケースもあります。

そのようなケースでは、
いかに不利な事実が裁判で出ないようにするか、
相手が必要な事実が抜けていることに
気づかないようにするかが、
訴訟のポイントの1つとなります。

誰でも、訴訟を起こされると、
こちらの言い分を全部主張し、
相手の主張の不備な点を
全て指摘したくなるものです。

しかし、相手も訴訟のプロの弁護士ですし、
裁判官もいますから、
こちらの言い分をたくさん言ったことにより、
相手がそれをヒントに
こちらの不利な部分に気が付いたり、
そこを調査することに気づいたりしてしまう可能性があります。

また、こちらが主張の不備な点を指摘すれば、
相手はその主張の不備を補おうとします。
だから、訴訟では、
こちらの言い分や相手の主張の不備を
全て主張すればよいと言うわけではないのです。

あまり主張しないというのも
訴訟に勝つための作戦の1つなのです。

特に、相手が知ったら
こちらが不利になる事情がある場合には、
たとえこちらに有利な事情があったとしても
こちらに不利な事情に関連するのであれば、
そこに触れない方がいいこともあるのです。

ただ、不利な事情があるからといって、
何も言わない、あるいは何も反論しないと、
裁判所に、こちらが不誠実、
あるいは、こちらが自分に不利だと思っているから
何も言わないと思われかねません。

そこで、裁判官には、
裁判に必要なことは反論し、
自ら積極的に事実関係について説明もして、
誠実に訴訟をしていると思わせながら、
不利なところは触れない
という方法を取ることが必要になります。
これは事案によりますし、
弁護士でもその判断がなかなか難しいところです。

僕の過去の経験では、
訴訟の終わりまで不利な事情が訴訟に現れずに
成功したケースもありますが、
相手の弁護士が気づかず
勝てそうだと思っていたところ、
裁判官が気づいてしまって、
訴訟が不利になったということもあります。

みなさんには、訴訟では、
こちらに有利なことは
何もかも全部主張すればよいわけではないこと、
逆に不利なことは全部隠せばよい
というわけでもないことを
理解してもらえれば十分です。


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