第104回 一昔まえまで、デザイナーになるには相当の技能の習得が必要だった。カラス口という道具をつかって、1mmの幅に細い線を10本書けるくらいでないと一人前でない、といわれたそうだ。技能習得のハードルがある程度高いから、その過程で能力の有無が測られ、不適切な人が排除されるしくみだった。 いまはそのような緻密な仕事は、すべてコンピュータがやってくれる。 必要最低限のコンピュータを操作する知識さえあれば、必要な能力は、もっぱらアイディアと意欲と意思だけ。プロとアマの垣根はとても低くなった。このことはグラフィックデザインだけではなく、ビデオ編集や音楽制作、また建築設計などにも、同じようにいえるはずだ。 ではプロとアマに、差がなくなってしまったのか。その違いはどこにあるのか。 よい仕事ができても、ムラ気のある人や、いつ電話をかけても留守電になるような人だと、仕事を発注することは難しい。コストと品質のバランスについての規範意識があるかどうか。納期と、クライアントに対する責任について、強い意識があるかどうか。アマチュアの問題は、たいがいここだ。ときどき120点の仕事をするアマチュアよりも、いつも85点の仕事をするプロの方が、信用できる。 プロには、そのような意識が不可欠であるが、逆にいうと、そこさえしっかりしていれば、明日からプロとして独立してやっていける。また、その意識が弱ければ、いまどんなに技能があっても、明日は相手にされなくなる。 |
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