第90回
ブランドケーエイ学35:量目マーケティング。
「味の素」のマーケティングについて、有名な話がある。なんとか売上げを増やす方法はないかと、いろいろ考えていたところ、ただ容器の穴を大きくしてみたのがすばらしく効果をあげた、というアレだ。
この「穴を大きくした」というマーケティングは、とても面白く、いろいろ示唆に富んだ話だと思う。まあ、味の素だからいいけれど、食塩とかタバスコで追随されたら、消費者はたまらない。
こういう、販促キャンペーン以前に、単純に消費量を増やす方法論を、「量目マーケティング」と名付けてみたい。それぞれの業種・業態でいろいろ工夫できる余地のある、アナ場じゃないかと思う。
むかし食卓の花形であった、ソースのことに思いをめぐらしてみよう。
かつては、しょうゆの次くらいの重要な位置を占めていたソースだが、現在ではマヨネーズに抜かれ、ケチャップにも抜かれ、家庭でとんかつを揚げる頻度も激減して、いまではすっかり影のうすい調味料になってしまった。昔、目玉焼きにしょうゆをかけるのは旧世代、ソースをかけるのが若者と言われ、ソースこそは洋風の代表格であったわけだが、いまでは目玉焼き=ソース派も、ほぼ絶滅の危機に瀕している。(おたくは何派ですか?)
考えてみると、ソース伸び悩みの要因はいくつもかぞえられる。まず店頭では、ソースは500mlボトルも300mlボトルも、同じく198円で売っているが、そのことが正しいかどうか。
同じ値段であれば大きな500mlボトルを買いたくなるのが人情で、こうして使い切れない大びんが封を切ったまま数ヶ月も消費されず放置されているわけだが、明らかに長持ちしすぎている。長持ちするのがいい、というのは昔の発想で、長く置けば味が落ちて当たり前だし、長く置いても腐らないという方がおかしい。よっぽど保存料がたくさん入っているのではないか、とあらぬ誤解までされてしまう今日この頃である。
こうして考えると、ソースのメーカーは、ボトルの容量と値付けの関係を見直すべきだし、主力商品がなにか、いっぺん考え直してみてもいいような気もする。
マヨネーズとケチャップのトップメーカーは、日本を代表する食品ブランドになっていったのに、どうしてソースのトップメーカーがそうなれなかったのか、マーケティングを考えてみるときの好材料と思う。
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