第56回
ブランドケーエイ学21: できないからやってみよう。

営業ベタなぼくがいうのでは説得力に欠けるが、営業マンの鉄則のひとつに「わかりません、できません、とは言うな」というのがあると思う。

「わかりません。できません」と言えば、それで話が終わってしまうし、努力するつもりがないと見られてしまう。「勉強してきます。なにか方法がないかどうか、検討してきます」と出直した方がいい、というものだ。
ネガティブな結論をださず、肯定的な言い方をして積極姿勢を見せるという点で、納得できる話である。わが社の営業パートナーも、これまでの経歴の中で、そのことを心がけてきたそうだ。

この話で思い出すのは、若い頃に聞いた保険会社の営業マンの話だ。
彼は非常に優秀な営業マンとして、信頼も厚かったし、明るく誠実な人柄で、顧客に愛されていた。
彼は逆に、最初に「できます、やります」というのはよくない、という。例えば、なんらかの事故があって保険でカバーできるかどうか相談があるとする。保険適用になるかどうか微妙なとき、顧客の信頼を得たいがために、つい「大丈夫でしょう、できると思います」などと言いたくなる。
彼のやり方は、「そのケースは認められないことが多い。できないかもしれない」と顧客にはクギをさしておいて、それから、適用してもらえるように本社に交渉してみる、という。
そうすれば、ダメでもともとだし、もしうまくいけば「本来ダメな案件を、この人が努力してくれたおかげで適用になった」とお客さんは喜んでくれる。
最初にいいようなことを言っておいて、そうならなかった場合は信用をなくしてしまうし、その信用失墜は深刻だ、と考えていたのである。

心理学の好感度実験では、はじめから最後まで悪い印象である場合よりも、最初はよい印象をもったけれど次第に悪くなるケースが、最もイメージが悪くなる。逆に、よい印象をもちつづけた場合よりも、悪い印象から始まったけれど、だんだんよい印象に変わっていくケースの方が、よいイメージがつよくなる。

この心理学からは、ポジティブな姿勢を見せようとするあまり、できないかもしれない約束をしてしまう営業マンがいちばんキケン、ということになる。


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