第2回
儲けさして!(2)
そんな両親のもとで育ったから、
自分にも「農民の価値観」が根づいている。
ところが、両親ほど勤勉にはなれない、怠け者だ。
どうしてこう怠け者なんだろう、と自分を責めて考えたこともある。
その理由は、数年前にわかった。
さて「働くことが価値だ」を軸足にすると、
商人のもうけ方に納得がいかないことがでてくる。
あちらのものをこちらに動かして利ざやを得る。
たったそれだけの仕事で、大きな利益を得るとは一体どういうことだ?
動かすことに苦労がある場合は、利益もその仕事の報酬として納得できる。
しかし商売は、利ざやを稼ぐことが目的であり、
ものを動かすことはどうでもよいことだ。
極端な場合、商品を動かさずに利益が得られるものなら、
むしろその方がよい、と考える。
株式の取引などは、そのようなものではないだろうか。
そのことについて、商人は自分を責めたりしているか?
もちろん、いちいち後悔しているはずがない。
商人には商人の価値観があって、
単純に「働くことが価値だ」というものではない、と理解するしかない。
商人の価値観がなにかは、まだはっきり定義できないが、
たぶん、利ざやについていえば、このような考え方かと思う。
つまり、相手が満足する限り、値段はいくらでもいいのだ。
相手が満足するかどうかは、
商品の品質と、買い手の事情、市場の状況で決まる。
「相手を満足させて、儲けることが楽しい」
そう考えるのが商人ではないかと思う。
会社をつくってまだまもないころ、元気な印刷会社の女社長に出会った。
彼女には多くを教わったが、
彼女の家で食事をごちそうになった日、年老いた母親が、
別宅からわざわざ挨拶にきてくれた。
しわだらけの顔をにっこりさせ
「娘がホントにお世話になって、ありがとネ」
とぼくの手を両手でにぎると、
「儲けさしてやって!・・・頼むね!」
と言って、ウィンクをした。
なるほど商家はあなどれない。
「儲けさして!」・・・その語感がベリー、インプレシブであった。
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