第767回
『私は自由が欲しい』
邱さんが『女の財布』を執筆したのは
昭和58年から59年にかけてのことですが、
その一年ばかり前の昭和57年から58年にかけて
『死に方 辞め方 別れ方』を執筆しました。
その執筆のなかで邱さんは
『別れ方』の一つとして
「離婚」を取り上げました。
アメリカにおける夫婦が別れるときの情景を
邱さんは次のように叙述しています。
「アメリカの女性たちが
亭主に離婚状を叩きつける時に言うセリフは大体、
決まっているそうである。
『私は自由が欲しいの』
『自分自身の人生を発見したいの』
それも、ある日、
たとえば電気皿洗機で皿を洗いながら、
突然、思いついて
そのまま駆け出してしまうのである。
一方、亭主の方の反応もほぼ同じで、
まるで、
『天地がひっくり返ったようなショックを受け、
うろたえ“信じられない”
“なぜ”と理解に苦しみ、怒り狂い、
それから“出て行かないでくれ”と泣いて懇願し、
妻の意志の堅いことを知ると絶望し、
仕事も手につかない虚脱状態におちいる』と
下村満子さんが『アメリカの男たちはいま』
(朝日新聞社刊)という本で報告している。
※「男たちの意識革命」として文庫で出版されています。
以上のような出来事は、
日本に住んでいる私たちから見ると、
嘘のような出来事である。
また、私たちの夫婦生活や
家庭生活に対する常識に照らし合わせても、
アメリカでは起こりえても、
私たちの周辺では起こりそうもないことだと
考えてしまう。
ところが、アメリカの離婚を促した経済環境が
日本を取り巻くようになり、
条件が似てくると
同じようなことが起こりやすいから、
対岸の火事と安心してばかりもおれないのである。」
(『死に方 辞め方 別れ方』)
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