| 第298回「日本で転職や独立を考える人は少数派」
 邱さんが書いた『途中下車でも生きられる』は、その前に書かれた『野心家の時間割』などに比べると
 売れ行きはイマイチであったとのことです。
 といっても「5万部や6万部は売れた」というのですが、
 他の書に比べると、読まれる部数が少なかったというのです。
 その原因を邱さんは探求しています。
 「日本の主流はあくまで体制社会である。大半の人々は社会の決めたコンベアーに乗せられて
 大学を卒業し、一流会社をめざして就職をする。
 いったん就職をすると、よほどの大過がない限り、
 生涯を一つの会社で過ごし、定年になってから
 はじめて余生を送るための身の振り方を考える。
 そうした体制社会で、本気になって転職を考えたりするのは
 残念ながらほんの一握りの人々にすぎないのである。
 そうした体制社会にあって
 独立を考えたりするのはもともと異分子である。
 異分子というほどでなくても、
 転職や独立を考えていることを職場に行って、
 口に出して言うことは禁物である。
 現にリクルートには『就職情報』という雑誌があった。
 しばらく前に『B-ing』と改題したが、
 どうしてかと聞いたら、『就職情報』と書いた雑誌を
 職場に持っていけないからだという返事がかえってきた。
 そういえば、少々抽象化されているが『途中下車でも生きられる』も似たり寄ったりで、
 小冊子だから鞄の中に入れて歩くことはできるが、
 カバーでもしなければ
 会社へもって行って読むわけにいかない。
 定年まで一つの会社につとめることが
 常識になっている会社では、
 会社を辞めるのはいよいよのことであり、
 あったとしてもあくまで少数意見なのである。
 しかし少数意見であろうと個人的見解であろうと、馴染めないものは遂に馴染めないのだから、
 自分の気のすむように生きるよりほかない。
 何事も自分勝手にやろうと思えば、
 それだけの代償が必要である。
 それを覚悟の上で、『途中下車、前途無効』であっても、
 あえて途中下車を強行せざるをえない場合が起こる」
 (『四十歳からでは遅すぎる』)
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