第198回
「戦場」を撮るカメラマン
以前、このコラムにも書きましたが、
アメリカ同時多発テロ事件が起こった5か月後、
私はカメラマンと共にニューヨークの現場に取材しました。
今では瓦礫の撤去も終わりましたが、
その頃はまだ生々しい傷跡が残っていました。
一般の観光客も展望台から現場を見ることができます。
ただ、当時は展望台からの見学しか許可されていませんでした。
しかし、そのカメラマンは言うのです。
「展望台の逆の角度から写真を撮りたい」と。
彼は週刊誌で事件現場の撮影をしてきた経験があり、
その血が騒いだのかも知れません。
偶然ですが、私はその数年前、
ワールド・トレード・センター跡地の向こう側、
つまりヨットハーバーで取材をしたことがあり、
だいたいの道筋を覚えていました。
それで、行ってみようということになったのです。
当時、ワールド・トレード・センター跡地に
行かれた方は分かると思いますが、
逆側に抜ける道路には警察官が立ち、見張りをしていました。
私たちは彼らの目を盗んで、現場の反対側に行ったわけです。
割と簡単に行くことができましたので、
厳重にチェックされていたわけではないのかもしれません。
しかし、そこにいたのは瓦礫を撤去している作業員や
行き交うトラックの交通整理をする係員といった
関係者だけでした。
そして、私たちはかつて公園だったと思われる場所に、
テレビに何度も写っていた消防車が、
傷ついたまま放置されているのを見つけました。
それを見たカメラマンは何ともいえない表情をして、
シャッターを切りはじめます。
「しめた!これは週刊誌に売れる」と思ったかもしれないし、
いわゆる「絵になる」から、そうしたのかもしれない。
いずれにしろ、被写体としては申し分ありませんでした。
もう、何が言いたいか、お分かりですよね。
イラクでの人質の中にフリーのカメラマンや
ジャーナリストがいたことで、
彼のことを思い出したわけです。
「自己責任」とか、「イラク派兵との関係」など、
いろんな議論がされています。
何が正しくて、何が間違っていて、
何をすべきで・・・、
そうしたことは、判断がつきにくい。
それは、多くの識者と呼ばれる人たちが、
新聞やテレビで語ってくれることでしょう。
彼らの行動が正しいか、正しくないか、
私には答えはわかりません。
ただ、実際に戦争をしている地域があって、
それには日本人も大きく関わっていて、
なのに、その地域の情報はごく限られたものしかない。
そんな場所に彼らが行くのは、不自然ではない気がするのです。
普段、彼らと接していると、行ってしまうだろうな、
と、納得してしまうという意味でです。
もしも、彼らがスクープと言えるほどの
衝撃的な写真や映像を撮ったとすると、
マスコミはそれを掲載、放送するでしょうし、
イラクへ入るジャーナリストを応援する人も批判する人も
それを見るはずです。
そして撮った本人は、仕事をやり遂げた満足感を得る。
そんなことも考えられる。
命は大切にしてほしいですけど、本当に。
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