旅行記者・緒方信一郎さんの
読んでトクする旅の話

第110回
海に消えた友人

台風の季節がやってきました。
今年は台風の当たり年のようですが、
海に遊びに行く人は気をつけてもらいたいものです。
私の体験をお話しましょう。

台風が去った後の与論島。快晴の天気で、
ビーチは観光客やサーファーで賑わっていました。
与論島は鹿児島県の南端、というより沖縄本島にほど近く、
さんご礁の美しい海に囲まれた小さな島です。
そこへ私と友人は覚えたてのウィンドサーフィンをしに行きました。
その日はまだ台風の影響があったのでしょう、
やや風が強かった。友人よりウィンドサーフィンが下手で、
しかも臆病な私は早々に波の乗るのを諦め、
浜の近くでのんびりと泳ぐことにしました。

一方の友人は気にすることなく、帆を立てました。
みるみる上達しはじめた時期で、
サーフィンが面白くてたまらなかったのです。
しかし、車の運転と同じでそういう時期が一番事故に遭いやすい。
友人は颯爽と風に乗り、沖へと出ていきました。
ずいぶん上達したものだと思いながら、
私はずっと彼を目で追っていました。
それから、ほんの5分もたっていなかったと思います。
沖の方でウィンドサーフィンの帆が立ったと思ったら倒れ、
また立ったと思ったら倒れ、それを繰り返すようになりました。
そして、帆の角度はだんだん小さくなり、
ついには、見えなくなってしまいました。

それを見ながら鈍感な私は、「やはりまだ下手クソだな」などと、
姑息な優越感に浸っていました。
しかし、人間の感覚とはバカにできないものです。
今まで聞こえていた周囲の声や波の音がぱったりと止んだ。
いえ、違います。耳に入らなくなったのです。
ビキニの女性や裸の子供たちが無邪気に遊んでいるのは認識できる。
でも、音は聞こえません。実は、今でもそのときに自分が
何を考えていたのか、正確に思い出すことができません。
ただ、友人の身に何か重大なことが起きたのは分かったと思います。
助けを呼ぼうと、浜辺の「海の家」に向かって走り出しましたから。


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