旅行記者・緒方信一郎さんの
読んでトクする旅の話

第48回
観光客と地元の人とのギャップ

私が初めて中国に行ったのは13年前のことです。
その頃はまだ個人での入国は難しかったので、
あまり好きではないパック旅行で行きました。
でも、そこは東洋の国。規制が緩やかといいますか、
入国してしまえばルールはあってないようなもの。
一応ずっと添乗員が同行することになっていたのですが、
「自分たちだけで町を散策してみたいから」と言うと、
あっさりOKになりました。

場所は上海だったのですが、その頃はまだほとんど
土地開発は進んでいませんでした。
高い建物は外資系のホテルが数軒あるくらい。
観光地と言っても、バンド(外灘)やジャズ演奏の和平飯店、
それに豫園や魯迅の記念碑くらいのものでした。

ですから、観光地などほとんど行かず、
地元の人が利用するスーパーをのぞいたり、
一般の住宅があるような路地を歩いたりしていました。
でも、その旅は今でも忘れられません。
一言でいうと、そこには懐かしさがありました。
当時、日本はバブル経済の真っ只中。
古いものがどんどん失われていった時代です。
今でこそ、日本でもお台場に昭和30年代の町並みを再現した
スポットができたり、旅行も「癒しがブーム」などといわれますが、
当時は経済発展の最後の残り香を謳歌している時代でした。
ですが、上海には「古いもの」そのものがあったのです。

夕暮れ時に住宅街の裏路地を歩くと、
子供たちが一日の終わりを惜しむように遊んでいる。
そんな風景は自分が子供だった頃を思い出させてくれました。
食堂へ行っても、今のように洗練された料理などありません。
ですが、素朴ながら、こだわりを感じさせる美味しいものでした。
人々も親切で、道を聞くと何百メートルも付いてきてくれました。

もちろん、旅行者にとっては素朴ないい町であっても、
必ずしも地元の人がそれに満足しているとは限りません。
上海もそうだったのは明らか。今の発展振りを見れば分かります。
便利で快適な暮らしがしたいというのは、当たり前の欲求ですから。
ここに旅行者の求めるものと、地元の人が求めるものとの、
圧倒的なギャップがあります。
その「イタチごっこ」は永遠に続くのでしょうか。


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