元週刊ポスト編集長・関根進さんの
読んだら生きる勇気がわいてくる「健康患者学」のすすめ

第2127回
「品格」より「信義」=猪瀬直樹さんの新刊

ばかばかしく皮相な単行本や新書が出回っている中で、
とても読み応えのある新書本が届きました。
日本の信義 知の巨星十人と語る」と題する
作家の猪瀬直樹さんの新刊で、
猪瀬直樹さんが、江藤淳、会田雄次、吉本隆明、
秦郁彦、高坂正堯、所功、山折哲雄、
梅原猛、鶴見俊輔、阿川弘之という
戦後日本を代表する思想界の賢人十傑とともに
日本を問うた貴重な対談集です。

猪瀬さんは、拙著「大正霊戦記―大逆事件異聞 沖野岩三郎伝」の
跋文でも書いておられるように、
1987年、大著「ミカドの肖像」で
大宅壮一ノンフィクション大賞を受けて以来、
「土地の神話」「メディアの欲望」など、
世界史の中で日本の天皇制と近代国家像を
独自の記号論で解明し続け、
近年は、道路公団の改革から都政への参画など、
実践の場でも、これからの日本と日本人のあり方を
心身で問うている行動派の作家です。

僕自身、「大正霊戦記―大逆事件異聞 沖野岩三郎伝」では、
100年前の大逆事件の欺瞞性を解き明かすことによって、
近代日本の精神的な縦断面というべき
「ミカドの肖像」的な体質について言及しましたので、
猪瀬さんの近刊は、とても示唆的なものとして
感服しながら読ませてもらいました。
詳しくは、ぜひ手にとって読んでもらいたいと思いますが、
僕が直覚的に感銘した、
猪瀬さんと賢人思想家の方々の
メッセージ・フレーズをピックアップしておきましたので、
以下、抜粋紹介したいと思います。

          *

「日本人の言語空間をアメリカの“覇権”が規定している」
「国家社会主義的システムが戦後民主主義の
みせかけの平等主義を支えている」
「天皇という存在は、モダンな消費生活のド真ん中に
空虚の中心として残っていく」
「京都の人は
“ミカド”なんていわない。“天皇はん”という感じ」
「近代天皇制は(皇居に)封じ込め、
視えない存在に持っていったところに問題あり」
「絶対的権力で日本は支配できない」
「多神教的な一神教はあると思う」
「大統領は王様である。
王の部分と、民主主義で選ばれた部分と両方ある。
どこかで王の機能を国民が求めているのかもしれない。」
「裕福のなかで質素に暮らせる」
「(国家的な)爽快感が指導者に伝染したらその国は滅びる」

               *

さあ、これが本書のメッセージ・キーワードの一部ですが、
皆さんの心にも響くものがいくつか伝わると思います。
僕は、最近、フランス、アナール学派の始祖・
マルク・ブロックの大著「王の奇跡―」という、
なぜ「王制が存続するのか」という謎について、
大衆心理の歴史から説き起こした本を
読んだばかりですので、
とくに「どこかで、王の機能を国民が求めているのかもしれない」
とする猪瀬さんの警告メッセージに
ズシリと響くものを感じました。

いずれにしても、いま日本と日本人の行く末が心配され、
政治経済から教育環境まで、あらゆる分野で
無責任な官僚体質が露呈している中で、
近代日本秘史が秘めてきた、
「アメリカとの黙約」から「国民の求めていた天皇制」まで
近代日本の抱えている宿命的な体質と構造について、
じつに分かりやすく語りおろした集大成の好著です。
「品格」のまえに問われるのは「信義」でしょう。
専門家や高齢者ならずとも、20代、30代、40代の
一般のサラリーマンやOLのみなさんも読んでみましょう。


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2008年6月23日(月)

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