第2062回
僕が「大正霊戦記」を書いた理由
まえに、このコラムでもお知らせした
拙著「大逆事件異聞――大正霊戦記――
沖野岩三郎伝」という、ちょっと渋い人物評伝が
いよいよ4月20日から発売になります。
いまから100年ほどまえに、当時の進歩思想であった
社会主義、無政府主義思想の天才的論客・
幸徳秋水以下12名が不敬罪で絞首刑とされ、
日本全土を恐怖の渦に巻き込んだ
「天皇暗殺未遂・大逆事件」がありまして、
皆さんも学校でちょっとは習った覚えがあるでしょうが、
これが「でっちあげ事件」「冤罪裁判」のルーツのような
性格を持つ、いまだに謎多き事件なのです。
もちろん、当時の軍閥や官憲は真相をひた隠しにし、
多くの作家や識者が言論を封じられたわけですが、
唯一人、タブーを破って、
執念深く、この『真実』を告発し続けてきた
「沖野岩三郎」という反骨の作家がおりました。
いわば大正、昭和の近代史の『生き証人』ともいうべき、
この稀有の人物の波乱万丈の運命に焦点を当て、
100年前の「隠された真相」を
明るみに出そうというのが、こんどの作品です。
350ページほどの、ちょっとスリリングな読み物ですが、
いまもマスメディアでタブー視されている
実話や資料をふんだんに取り入れて検証した内容ですので、
興味のある方は、別掲の「告知」を読んで購入してみてください。
発行は僕の出版社からの自社出版ですが、
本のオンライン通販「万能書店」や
「AMAZON」などでも購入できるようにしましたので、
こちらにアクセスするか、さらに詳しく知りたい人は、
直接、こちらのほうにメールをください。
おって、発行元の「書斎屋」から返信いたします。
じつは、この主人公の「沖野岩三郎」は僕の母方の祖父でして、
この前代未聞の「天皇暗殺未遂・大逆事件」に
沖野の親友で和歌山県新宮市の名物医師・
大石誠之助という人が逮捕され、
「これは“嘘から出たマコト”だ」と叫びつつ、
主犯格の幸徳秋水らと共に、
無念にも絞首刑に処されてしまったわけです。
沖野は、その頃、新宮市のキリスト教会の牧師をしており、
共謀犯ではないかと取り調べを受けるのですが、
奇跡的にも検挙・断罪をまぬかれます。
以降、「要視察人(甲)」という重要危険人物として、
マークをされ、弾圧されるのですが,
官憲の尾行、監視、郵便物検閲の目をかいくぐり、
大正7年、大阪朝日新聞に真相を書いた長編小説「宿命」を発表。
一躍、大正時代の文壇にデビューしたという
変わった経歴の持ち主なのですね。
では、僕がこうした歴史人物評伝を
なぜ急に、書き下ろしてしまったか?といいますと、
わが家にも貴重な資料や書籍がたくさん遺されており、
僕は「大逆事件100年記念」の再来年の2010年の頃に
書こうと思っていたのです。
ところが、昨年、夏、胃カメラ検査で
「胃にガンらしき原発潰瘍が4個もある。手術しなさい」と
突然、医師から宣告されてしまったのです。
「こりゃ、いかん。死んだらもう書けん!
カラダの具合が悪くなったらもう書けない」と
直感して、これまで準備してきた下書き原稿を整理して、
ほぼ半年で、一気に書き上げてしまったわけです。
結局、僕はガン再発ではなかったわけですが、
人間の運命とは面白いというか分からないものですね。
こうした運命的なきっかけから、
「運命的な評伝」を出版することになってしまったのです。
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