第1042回
「患者がガン情報の海で溺れている」
先日、「ガンというミステリー」
(文春新書)
という新刊が送られてきました。
送ってくれたのは、ジャーナリズムの先輩で、
日本医学ジャーナリスト協会名誉会長の
宮田親平さんです。
宮田さんは、元週刊文春の編集長で、
僕が週刊ポストの編集長になる、
もう少し前に活躍された方ですが、
東京大学の薬学部出身という奇才ですので、
退職後は、医療ジャーナリズム界の重鎮として
活躍されておられる方です。
「あなたのためのがん用語事典」
(日本医学ジャーナリスト協会編著・文春新書)
「ガン特効薬
魔法の弾丸への道」(新潮選書)など
数々の名著を書いていますので、
このコラムでも、まえに紹介したことがあります。
さて、こんどの宮田さんの新著
「がんというミステリー」 という本は、
手術、抗ガン剤、放射線の三大治療、
さらに最近注目の免疫療法、分子標的治療まで――
この1世紀にわたる、
内外のガン治療の
「開発研究史」を集大成した力作なのです。
よく、ガン研究書が、
著名な医師たちによって書かれますが、
それは自らの専門ジャンルに特化した研究書で、
ガン医療の全般を見て、
開発・研究の長所短所を客観的に通覧し、
評価したものはありません。
また、一方で、
よく、○○キノコでガンが治った!などという
いわゆる健康食品PR本といったものが売られ、
その出版倫理が、
いま世の指弾を浴びております。
「がんというミステリー」という
宮田さんの本のタイトルどおり、
いまだ、ガンの特効薬は開発されていませんし、
ガンそのものの正体すら、
解明されていないのが実態であり、
患者が、溢れるばかりの
「ガン情報の海の中で溺れている」――、
それが現実なのです。
その点、宮田さんは薬学の専門家であり、
また雑誌編集のベテランでありますから、
ガン医療のあり方を
じつに分かりやすい文章で、
客観的、科学的に、
さらに大局的に見事にまとめおります。
僕は前回も
医療情報過多、いや情報が錯綜時代こそ、
患者と家族は
「よく学び、よく学べ」と申して参りましたが、
宮田さんの新著は、医師や専門家だけでなく、
患者や家族も読めば、
必ず、これからの治療選択、
病院選択の一助になると思いますので、
一度、手にとってじっくりと読んでみてください。
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