第672回
人間界を見下ろす8000mの霊峰
桃源郷・フンザへの旅の途中、
イスラム暴動に巻き込まれて
前に進めなくなった話の続きです。
とにかく、次の日も軍事非常線を張っている
パキスタン軍と交渉して、
「日本からの友好観光団だから」といって
許可を取ろうということになりまして、
また、プアールの軍の駐屯地まで行ったわけです。
炎天下、5時間は待ったでしょうか?
もうだめか?
いったいどうなっているのか?
ツアーの仲間たちのイライラがつのって
いまにも爆発しそうになっているとき、
パキスタン人ガイドのWさんが
汗を拭き拭きバスに戻ってきたのです。
国会議員や政府の高官との交渉で、
どうやらバリケードまでいけそうですから、
「行ってみましょう」というわけです。
ここカラコルム・ハイウエーのあたりは、
積雪に白く輝く山並みが広がり、
とくに南側には、ヒマラヤで第9位の標高を誇る
ナンガパルパット山・8125メートルが、
威厳を持ってきらきらと輝いておりました。
まるで人間たちの騒擾を
たしなめるように見下ろしているではありませんか。
地層学的に言えば、
このあたりは5000万年まえに、
大海に浮かぶ大きな島であったインド亜大陸が、
ユーラシア大陸に衝突して、
ヒマラヤの山脈として
地層を海底から押し上げたところですから、
まさに雄大。
神秘的というか多くの山系が交錯している、
いわば地球の年輪というか、
生命のシワが重なり合う景観を見せている場所なのですね。
地理的に言えば、インダス川とキルギット川の合流点をなし、
インダス川の右手にはヒマラヤ山脈、
インダス川とキルギット川の間には、
カラコルム山脈、
キルギット川の左にはヒンズークシュ山脈がそびえる。
まさに地球自然の奇跡が、
360度ぐるりと見渡せる展望台のあるところです。
しばしのことでしたが、僕たちは、
戦争や暴動といった無用な争いごとを忘れるときを過ごしました。
どこまでも抜けるような青い空に聳え立つ、
白雪の霊峰の数々を仰ぎ見て、
大自然の英気をたっぷりといただくことが出来ました。
そして、いよいよ、ドロドロとした現実の世界へ・・・
僕たちのバスは北上を続けたのです。
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バックはヒマラヤの第9峰・ナンガバルパット山(8125m) |
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