第362回
悔やまれる「老後の食事法」
いまや、わが身のガンだけでなく、
親の痴呆にも悩んでいる中年家庭は多いことでしょう。
まさに長寿難病時代は2世代倒病の様相を呈しています。
もう少し、マダラにボケてしまった、
わが老母の“糞”戦記を続けます。
「事件が連発したのは、
師走の風が吹き始めた11月の終わり頃である。
いまテレビで話題になっている紙パンツを
朝食の前後に履き替えさせるのも、日課のひとつだが、
紙パンツにお小水が溜まると、
まるで風船玉に水をたっぷり入れたように膨れ上がる。
気持ち悪いから母親は脱いでそこいらに投げ捨てる。
履き替えのタイミングがずれると、
病室からトイレ、風呂場まで、
糞尿がぶちまかれた状態になるわけだ。
ベッドに山と積まれた愛用の衣類、敷布、
布団やらが糞尿まみれとなる。
こうした場合はむしろ寝たきり老人の方が始末がよい。
母親は頭の片隅に
『後始末は自分でやらないと叱られる』という意識があるのか、
転がった便をタオルやシャツで拭ってゴミ箱までもって歩く。
ますます悪臭は拡散することになる。(略)
風呂に温水を溜めて、
まずシャワーで体にまとわりついた汚物をすばやく洗い、
風呂に入れる。(略)
モップで病室の床や廊下も急いで洗いまくる。
この作業は夫婦二人掛かりで、丸半日はかかった。
母親は風呂の中でよい気持ちになって居眠りをしている。
風呂から上がってくれば
『ご飯食べたいですね。どっこい』とねだる。
『お婆ちゃん、おもらしをしてはだめだよ』と、
ついつい、きつく叱ってしまう。
『どっこい!』――返事はこれだけである。
わが母ながら泣きたくなる」
さて、1999年が明けてのことです。
突然、僕が食道ガンで入院しただけでなく、
母が徘徊中に道端で転がり大腿骨を骨折して、
寝たきり状態になってしまったのです。
人生の弱り目に祟り目とは重なるものなのですね。
途方にくれたのは妻でした。
「たとえ鬼嫁と陰口を叩かれようと、
これでは3人が共倒れになってしまう」
僕の看護に専念するために
母を有料老人病院に入院させたのです。
たしかに長生きも難しい人生となりました。
体の小さくなった老母と言えども、
60歳過ぎの中年夫婦が四六時中、
自宅で介護するには限界があります。
ガンも然りですが、ボケの場合も病院選びは大切です。
たまたま自然のままに老後を過ごさせる
という方針の病院と巡り合いましたので、
気丈でひょうきんだった“どっこいお婆ちゃん”も、
いまは思う存分ボケまくって?
ときにニコニコ思い出し笑いをしながら
小康を保って暮らしております。
この“2世代倒病”の顛末に関心がある向きは、
拙著「母はボケ、俺はガン」を読んでいただくとして、
ただ1つ、悔やまれるのは老後の食事管理についてです。
僕のガンは玄米菜食による食事療法でいまは押さえ込んでいますが、
母の痴呆ももう少し食事に対する知恵が廻っていれば、
あれほど酷い“徘徊・垂れ流し”には
ならなかったのではないかと思うからです。
|