第3643回
デパートの買収がスーパーの生命取りに
神戸の三宮駅の駅前に主婦の店ダイエーができた時、
私は噂をきいてすぐ三宮までとんで行って、
店を見せてもらいました。
木造の2階屋で、店の脇の階段をトコトコと上がると、
八畳くらいの部屋があって、中内功さんと
のちに喧嘩別かれをした弟さんが机を並べて
忙しく働いていました。
私が「ずいずんお客が入っていますね」と誉めたら
中内さんは「この間、牛肉の安売りをしたら、
お客さんが三宮駅まで並びましてね、
警察が来てデモじゃないから
デモ規制法で取り締まるわけには行かないけれど、
交通整理に協力してくれませんか、と言われて
整理券を出してあとから買いに来てもらったのですよ」
と笑っていました。
「あなたの商売はこれから大きくなりますよ。
それにお店の名前もいい」と続けたら
「どうしてですか?」とききかえすので、
「ほら駅前に同じ名前の大きな映画館があるでしょう。
もうすぐ左前になるから買収してそのまま使ったら、
社名変更もしなくてすむでしょう」
と答えて大笑いになったことがあります。
あれからスーパー業は発展に発展を遂げて
一世を風靡するようになりました。
私は次に新しく陽の目を見る成長産業には
いつも気をつけているので、
ダイエーだけでなくイトーヨーカ堂とか、
ジャスコとも、またヤオハンともつきあうようになりましたが、
或る時期、日の出の勢いだった成長産業も
次の時代には成長産業ではなくなってしまいました。
スーパーは全国を席巻しましたが、
安売りで客集めをするのが仕事でしたから、
上客を集めて売上げをあげるデパートに対して
抜き難いコンプレックスを抱いています。
お客も違うし、はたす役割も違うのですから、
遠くから見ておればいいのに、
デパートをライバル視して成長し続けてきたので、
デパートが左前になるとこの時ぞとばかりに
デパートを傘下に入れることに
躊躇する気配さえ見せませんでした。
いまそれが日本を代表するスーパーの寿命を縮める
傷口になりつつあります。
栄枯盛衰は世の常と言ってよいでしょう。
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