中国株、海外起業、海外投資、グルメ、ファッション、邱永漢の読めば読むほどトクするコラム

第3546回
チェーン店より個店の肩を持ちます

子安大輔さんの「“お通し”はなぜ必ず出るのか」(新潮新書)は
飲食店ビジネスの経営を分析した本ですが、
タイトルからその内容を想像できないので、
実際に手にとって読みはじめるまでは
どんな角度から物を見ているのか想像もできませんでした。
まだ年も若いし、(1976年生まれ)従って経験も浅いし、
果して何を言おうとしているのか、
半信半疑でページをめくったのですが、
私がかねてから自分なりに答を出していたことを
系統立てて取りあげており、
分析力のある人だと感心しました。

たとえば、飲食店業者が次から次へと株の上場をして
証券業界からチヤホヤされはじめた時、
私はチェーン店の業績は、
たとえば新日鉄の1株当りの利益が5円もないのに比べて、
額面の50円に及ぶのが珍しくないから
株式市場でブームになることを予想しましたが、
同時にこの人気は長く続かないだろうとも予想しました。
それを子安さんは
「小さな驚きがお客をまた同じ店に引き寄せる」
と表現していますが、
水商売の難しさは
どんなすぐれた経営者でもその小さな驚きを
くりかえし持続させることのできないところにあります。

従って飲食店に対するお客の熱はさめやすいし、
さめた料理には人がよりつかなくなってしまいます。
ですから「上場は勲章でない」とこの本には書かれていますが、
私はずっと昔からいくら料理に才能のある人でも、
オーナーシェフが株を上場すると、
その店からは足がしぜんに遠ざかって今日に至っています。
チェーン店はまた別の目的で展開されているものでしょうから、
商売としては成り立つとしても、
料理を楽しむ人の行く所ではありません。

そういった意味で、
人気が出たら次々と支店をつくって行く有名店に
私はかねてから疑問を持っています。
どんなに腕のいい職人だって
同時に2ヵ所で料理をつくれるわけがないのですから。
そのことをこの本では
「個店の時代が到来する」という表現で指摘しています。
私自身、個店で頑張っているシェフに対しては内心、
敬意を表しています。


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2009年11月24日(火)

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