第3056回
スシを握っていたのでは遅すぎます
食べる物を扱う分野は、
人類がずっと昔から扱いなれてきた分野ですから、
そう目の醒めるような新しい工夫ができるわけではありません。
ですから農業に従事して産をなした人は、
土地の改良をしたとか、
飢饉と豊作貧乏のもたらす
農産物の相場の上げ下げをうまくあて込んで
地主にのしあがった人とか、
昨今で言えば、品種改良に成功したか、
国際間の価格差をうまく利用して
儲けた人とかいうことになります。
農業生産で産をなしたというよりは、
人々の嗜好の変化をうまくとらえて
新しい食品の開拓に成功した人が
次のチャンピオンになっています。
農産物で成功したというよりは、
農産物の加工業で成功した例は、
日本で言えば、乳業で成功した企業とか、
トマト・ケチャップやマヨネーズをつくって
有名ブランドにした人とか
インスタント・ラーメンをつくって一家をなした人
とかいうことになります。
また中国で言えば、蒙牛とか康師傳とか、
食品加工で成功した新興企業がこの分類に属します。
ですから、私は金持ちになりたかったら、
「米をつくるな、米をつくるよりスシを握れ」と
昔々、まだ日本が高度成長経済にさしかかった頃に、
地方に講演に行った時によく話題にしました。
同じ一粒の米を売って差額を稼ぐなら、
米をつくって売るよりも、
米を買ってきてスシに握って売った方がずっと割に合うからです。
工業社会の儲けの方が農業社会の儲けよりずっと多いのは
こうしたリクツによるものであって、
このリクツに従って日本は
工業で世界の金持ちの仲間入りをしたのです。
ところが、金持ちの仲間入りをした日本が飽和点に達して、
日本人が新しく海外に出稼ぎに行くようになると、
どうやら真っ先に考えることは、
スシを握るか、鉄板焼きをやるか
ということになってしまいました。
私は30年も前に、
世界における日本料理を予想したことがありますが、
いまの着想がスシか鉄板焼きでは少し安易すぎると思いませんか。
もう一ひねりひねって見てはどうでしょうか。
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