中国株、海外起業、海外投資、グルメ、ファッション、邱永漢の読めば読むほどトクするコラム

第2364回
工業生産に向いていない国民性かも?

もしかしたらロシア人は
私たちが考えている工業生産には向いていないのかも知れません。
それにしても、スプートニックをはじめとして、
軍需産業ではアメリカと肩を並べてきたではないか、
と反論されそうな一面もあります。
民需が全然、なっておらず、軍需だけが突出して先端を走ったのは、
共産体制がもたらしたものだと解釈することができます。
かつての独裁皇帝が農奴たちをこきつかって
その果実を一方的に召し上げて
スペインやオーストリアの皇帝たちの王宮に負けない
豪華絢爛たる王宮の建設に集中投資したように、
そのお株を奪った共産革命のトップたちは、
共産という名目の下に、
国の富を集中して共産体制を守るための軍備に注入したのです。
そのために人民の生活水準とは全くアンバランスな形で
軍需産業が発達しましたが、
それが一般産業の開発される導火線になったというきざしは
残念ながら、どこにも見当りません。
解放された農奴たちは昔と同じように、
新しいご主人がこうだと声をあげたら、
その真似をして、そうだと同じ鳴き声で応えてきたのです。

ですから、軍需産業と民需産業の落差がひどく、
エルミタージュ美術館と民家の対比と同じことが
産業界にも定着してしまったと考えるよりほかありません。
ロシアの成長率は7.2%ときかされても、
それは石油高によってもたらされたもので、
政府の使えるお金がふえただけのことです。
したがってそれを中国やインドとごっちゃにして考えると
誤った判断を下すことになってしまいます。

ではどうしてロシアで工業が盛んにならないかというと、
それはお上のご機嫌取りに気を使いすぎて、
サービス精神と効率が二の次になってしまったからではないかと、
モスクワの町の中を歩きながら考えました。
陶磁器を見てもお土産屋に売っている民芸品を見ても、
心の動くような精巧な物は何一つ売っていないのです。
それでいて値を吹っかけることでは人後におちないのですから。


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2006年8月30日(水)

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