中国株、海外起業、海外投資、グルメ、ファッション、邱永漢の読めば読むほどトクするコラム

第2292回
邱飯店のメニューはオリジナルとは限りません

いまは年をくって台所の仕事もみんな人任せで、
かなりおざなりになってしまいましたが、
「邱飯店のメニュー」を維持して行くために、
うちの家内が払った努力は並大抵のものではありません。
立派な料理人になるためには自分が工夫することも大切ですが、
人のつくった料理を食べて歩くこともとても大切です。

私は銀座のバーに行って、
隣りと同じ洋酒を飲まされて
法外な支払いをさせられるのには抵抗を感じますが、
創意工夫のある料亭のかなり高い勘定でも、
料理人の技術料と考えて割合に平気で財布の紐をときます。
おかげで日本国中だけでなく、
ヨーロッパやアジアの隅々まで
千里の道を遠しとせずに食べ歩きました。
うちの家内もよく一緒に行きましたが、
どこの店に行っても、
これは美味しいという味に出会うと、
いまでも材料からつくり方までいちいちメモにとって、
我が家に帰ってからもう一度再現してみせます。
似てもつかないものが出て来ることもありますが、
もっと上等な味になって出てくることもあります。

その代わりいちいち根掘り葉掘りきくので、
料理人の方が困惑することもあります。
天ぷらの老舗天政のおかみさんが
どこかの料理雑誌のインタビューで
答えていたのを読んだことがありますが、
「邱永漢先生の奥さんが一番熱心で、
どうしてころもをつける時に、うどん粉の中に氷を入れるのか、
油はどんな油を使って何度くらいの時に、
具を入れて、何分くらいたって、
どんな色になったところを見て油の中から取り出すのか、
いちいちおききになるのです」
と書かれていました。
ずいぶん昔のことで確か佐藤春夫ご夫妻にご馳走になった時です。
うちの家内は日本語もまだろくに話せなかった筈です。

フランスやイタリアに行っても、
中国の山奥に行ってもこの調子ですから、
邱家の家庭料理も
我が家の全くオリジナルというわけではありません。
私たちが外で食べてうちへ帰って再現したものの中から
我が家に定着したものも当然その中に含まれています。


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