第2282回
自動車ブームより道づくりの方が先
私が科学技術のコンサルタントの先生に
日本の自動車産業の将来についてききに行ったのは、
日本の高度成長がはじまったばかりの頃のことでした。
サラリーマンが飲まず食わずで
10年間のサラリーを貯金にまわさないと
自動車が一台買えない時代のことです。
日本経済新聞で毎回
「科学と技術」の欄を担当していたその先生は
日本の自動車産業に対してとても悲観的な見方をしていました。
先ず第一に日本の自動車の製造技術はアメリカに比べて
比較にならないほど劣っている。
第二に生産量が少なすぎて生産コストで競争ができない。
第三に日本の道路は自動車が走るようにできていない。
「だから、将来と言えども
自動車産業は全く見込みはありませんね」
と剣もほろろの返事でした。
それでも
晴海埠頭で開催された自動車ショーに集まった若者たちの
燃えるよう眼差しが脳裏に刻まれていた私は
日本はやがて自動車産業に取り組み
自動車の生産を物にする時代が来るだろうと
自分の考え方に固執しました。
もし日本の道が自動車を走らせるに適していないとすれば、
自動車の洪水が日本の道を拡げるだろうと信じて
一歩も退かなかったのです。
ただ私は一つの考えに固執するよりも
屈折して違うアングルからものを見る癖があるので、
もし自動車がすんなり通れないのなら、
道を拡げることから先にすすめればいいんじゃないか、
それなら道を拡げることは日本経済の次の大きな仕事だ、
と勝手に決めてしまいました。
ご承知のように
日本の地形は東北から南西に向かって細く長く、
狭い国土の中に山あり川ありです。
道を拡げるとすれば、
山にぶっつかればトンネルを、
川にぶっつかれば橋をつくらなければなりません。
ならば自動車の株を買うより
トンネルと鉄橋の会社に陽が当る筈だと確信して、
佐藤工業というトンネル工事専門の会社と
宮地鉄工という橋梁会社の株を取りあげたら、
投資家の皆さんが賛成してくれて、
ストップ高またストップ高が続きました。
日本で高度成長がはじまったばかりの頃のことです。
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