第2281回
自動車株を買ったばかりに頭を抱えて
私が東京ではじめて株を買ったのは昭和34年、
私が35才になったばかりの頃のことでした。
ちょうど高度成長がはじまったばかりで、
池田内閣の打ち出した所得倍増論に
皆が疑いの目を向けていた最中のことでした。
株について何一つ知らなかった私が
株を買ってみる気を起したのは、
これから日本経済はよくなる方向に向うらしい、
そうなったら皆がお金に
いままでより一そう強く関心を持つようになるだろう、
文章書きとしてその勉強をしなくっちゃ
という気持からでした。
株でお金が儲かるよりも、大損をさせられるのではないか
という恐怖心がありましたから、
株に賭けるお金もほんの少しだったし、
株を買ってからもチャンスのある毎に
自分の考え方が正しいかどうかプロの意見をききに行きました。
私がプロというのは証券会社の社長さんや
株式部長さんのことではありません。
証券会社の人は
株をお客に買わせるビジネスに従事している人であって、
株価を動かす環境の変化に対して
正しい見透しを持った人たちではありません。
株をやって百戦百勝するような人なら
証券会社に勤めているわけがないし、
誰だってお客の方にまわっている筈だからです。
私の言うプロとは、たとえば科学技術の専門家のことです。
経済の動きが上向きになって産業界が活気を帯びてくると、
それと絡みあってマイカー・ブームが澎湃として起ってきました。
若者たちが自動車熱に浮かされる光景が
あちこちに見られるようになったのです。
そこで私は自分でトヨペットの新車を大枚100万円払って
(当時のサラリーマンの初任給はまだ1万円台でした)
購入しただけでなく、あわよくば
トヨペットを只にしようとしてトヨタの株を買ったのです。
そうしたらトヨタが時価発行による増資を発表して
一時期、株価が大下がりに下がりました。
心配になった私は
科学技術コンサルタントの先生のところへ
日本の自動車業界はどうなるんですかとききに行ったのです。
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