第2230回
成熟社会のシンボルは表参道ヒルズ
成熟社会の悪い面ばかり指摘しましたが、
これだけたくさんの寄生虫を養ってもまだちゃんと
息がつけている社会はかなり豊かで、人の面倒の
見れる余裕のある社会です。バブルがはじけて、財産が
目減りする時代が十七、八年も続きましたが、
日本の国はよその国の人たちから見たら依然として
金持ちで生活のしやすい環境です。
高度成長から低成長、低成長から成熟社会に移る過程で、
多くの企業や財産家が没落し、経営者の選手交替が
起りましたが、それはお金の流れに大きな変化が
起っているのに、それに対応できずに乗っていた船を
転覆させたからです。しかし、転覆したのは成長期の
指導的役割をはたした人たちであって、
成長過程で築き上げられた生産力や技術力ではありません。
また富を築く能力でもありません。したがって一旦、豊かに
なった社会を維持して行くだけの能力が瓦解して霧散
してしまったわけではないのです。
その根拠に世界中のブランド商品メーカーが日本人の築いた
富を狙って、次から次へと東京や大阪を狙って
乗り込んできています。五十年前、私が香港から小説家に
なるべく東京に戻ってきた時、私は東京中を見てまわって、
将来、日本が再建に成功したら、表参道がパリの
シャンゼリーゼの大通りになるだろうと値踏みしました。
のちに株をやって少々お金を稼いだ時、表参道と明治通りの
交差点に小さな店舗を確保しましたが、とうとう表参道の
大通りのスペースを手に入れることはできませんでした。
私が買おうと思って商談に入ったいくつかの地点は、
いま世界中の有名ブランドがきしみあっています。
表参道で儲けそこなった私はその後、上海や北京や成都で
夢の一部を実現しましたが、久しぶりに表参道ヒルズのあたりを
散歩してみて、自分の目のつけどころが間違っていなかった
ことを思いかえしました。日本は私が五十年前に予想したような
立派な復活と成長をしていたのです。
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