中国株、海外起業、海外投資、グルメ、ファッション、邱永漢の読めば読むほどトクするコラム

第2227回
夢よ、もう一度と考えても無理です

はじめてスペインに行った時、私の頭の中には
無敵艦隊インビンシブル・アルマーダーの印象が
強く刻み込まれていました。
宿をとったマドリッドのホテルの窓から朝方、
眠け目でオフィスに出勤するサラリーマンたちの姿の中から
アルマーダーの面影を見出そうと一生懸命に目をこらしました。
でもそこには
昨夜の深酒からまだ醒めきれない老若男女の足取りはあっても、
世界に睨みをきかせたかっての大国スペインの後光は
どこにも射していませんでした。
たとえ過去に偉大な歴史を刻んだ国であっても時代が移れば、
そこに住んでいる人たちは
別の世界の人たちになっているのです。
恐らくマドリッドのサラリーマンたちは
まさかコロンブスを新大陸に送り出した時代の目で
自分たちが見られているとは想像もしなかったに違いありません。

最近の日本で、久しぶりに株価が50%も上がったのと、
設備投資に企業が動き出したのとで、
高度成長時代が戻ってくるのではないかと
早合点する動きが見られます。
なかには物価が多少、上向きになったのを見て、
「デフレよ、さよなら」
と早とちりする人もいます。
確かに石油も鉄も金も値上がりしていますが、
これは中国とインドが成長経済に突入して
素材に対する需要が旺盛になったからだし、
十何年ぶりに設備投資に力が入っているのは、
既成設備がボロボロになったのと、
国内に残る事業が何であるか、
メーカーたちに大体の見当がつくようになったからです。

既にオトナになってしまった日本経済の骨格に
更に成長ホルモンが働いて
更にもっと大きくなる動きでは決してありません。
既に成熟社会に達してしまった日本がもう一度、
高度成長時代に戻るわけではありません。
サラリーマンたちの電車の乗り方だって、
高度成長時代とは違ってしまっているのです。
私たちがこれから眞剣になって取り組むことは
成熟社会をどう生きるかということであって、
高度成長時代に入った国々と
同じレベルでどう競争するかということではないのです。


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