第2064回
中国の工業化を疑問視する人が沢山いましたが
日本が工業立国の先覚者だとすれば、
中国は後発です。
半世紀ほどのズレがあります。
日本の場合は敗戦によって
食うや食わずのピンチにおちいったことが
きっかけになっていますが、
中国では共産主義の天下になって生産意欲が低下し、
国をあげて飢餓に直面したことが
動機になっています。
多くの日本人は戦前の中国や
共産党治下の中国の実情を見ているので、
社会主義市場経済化と言っても、
中国人に工業化や高度経済成長は無理だろうと
タカをくくっていました。
でも私が見ると、
中国人は家族主義、利己主義の気風が強く、
工業化に必要なグループ活動や
公益優先の精神に欠けているけれど、
計算には強いし、自分の利益のためになることなら
夜討ち朝駆けも厭いません。
とりわけ利益の追求には熱心で、
自分の利益になるとわかれば、
日本人以上に敏感に反応します。
ですから、そういう環境におかれれば、
日本人以上に昼夜を分かたずよく働きます。
小平が中国人のそうした深層心理を
うまく利用することを考えて、
「白猫黒猫」説を唱えたり、
「先富論」を裏づけに自由市場の実験をしたり、
4つの経済特区を設立したのも、
中国人の国民性を
よく知っていたからだと言ってよいでしょう。
私はたまたま台湾に生まれたので、
日本人も台湾人もよく観察しています。
台湾のおかれた環境は
ちょうど日本と中国の中間みたいなところで、
台湾人はもとを言えば
中国から台湾に渡った中国人の子孫ですから
50年間日本人の統治下におかれたために、
環境的にも気質的にも
日本人と中国人の中間地帯におかれています。
その台湾人が工業化に熱心で
高度成長でも日本に次いで
その後を追ったのですから、
同じような環境におかれたら、
大陸の中国人にも同じことができないわけがありません。
すぐ経済特区からの呼びかけに応じて
大陸に進出した台湾の企業の経営者がそう考えたように、
私も中国大陸の工業化は
かなりのスピードで進むだろうと確信しました。
そう思った途端に私の足は
もう大陸の土を踏んでいたのです。
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