第1955回
なぜ日本人の方が一足先にお金持ちになったか
商才のある人だけが
お金持ちになれるわけではありません。
商才だけを問題にするなら
中国人の方が日本人よりも何枚もうわてです。
それなのに日本人の方が
中国人より一足先に金持ちになったのは
どうしてでしょうか。
ほんの一世紀くらい前までは
世界中が農業国で、
農作物が生み出す価値で
すべての人たちが生計を立てていました。
農作物の分け前を
どれだけ多く手に入れられるかによって
貧富の差がきまりました。
村の中では地主の分け前が多かったし、
領主はそのまた上前をはねたので、
領主の取り分が一番たくさんでしたが、
統治階級は経済観念がなかったので、
商人にしてやられることが多く、
士農工商の中で一番金まわりのよかったのは、
農作物の売買で産をなした
商才のある商人たちでした。
中国も基本的には農業社会でしたから、
うまく立ち廻わった商人たちが一番富に恵まれ、
その分、役人たちからうとまれる存在でした。
ところが、工業が盛んになって、
工業製品が生み出す富が
農作物のそれを乗りこえて増えるようになると、
彼我のバランスは一変してしまいました。
とりわけ戦後、
農業ではメシの食えなくなった日本で、
工業化がすすみ、
工業によって生み出された富が
驚くべき勢いでふえはじめると、
日本は先進工業国を見る見る追い越して、
アメリカと並ぶ
お金持ちの国になってしまいました。
どうしてかというと、
工業製品がつくり出す付加価値は
農作物の付加価値よりも遥かに大きく、
土地や天候の制約を受けることもなく、
その作り手に金持ちになるチャンスを
もたらしたからです。
こうなると、
国全体がお金持ちになるかどうかは、
国土の広さや資源のあるなしに拘らず
工業生産が生み出す付加価値によって
きまってしまいます。
日本人はたまたまそうした才覚を持っていたので、
商才のある中国人より一足先に
お金持ちへの道を歩むことになったのです。
工業がもたらす付加価値は
商業がもたらす付加価値より大きく、
且つ持続性があるのです。
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