第1676回
「口奢りて久し」の単行本ができてきました

私は食通を自任する人たちの間では
大食通ということになっています。
50年前に「食は広州に在り」という本を龍星閣から出版し、
いまも中央公論文庫で
ロングセラーズを続けているからです。
丸谷才一さんが文藝春秋で
「食通知ったかぶり」という連載をされた時、
戦後書かれた食の三大名著の一冊として、
この本を推薦して下さったおかげで、
一頃は香港行きの飛行機に乗ると、
スチュワーデスのお嬢さんたちから
本にサインして下さいと頼まれるというオマケまでつきました。

その後、「象牙の箸」 「漢方の話」
「奥様はお料理がお好き」 「邱飯店のメニュー」等々、
一連の食の本が続いています。
でも食に関心のない人は
私が食の本をたくさん書いていることも知らないし、
私のお金の本に親しんで下さっている人でも
私の小説を読んだことのない人はもっとたくさんいます。

それはそれで一向にかまわないことですが、
今回、久しぶりに中央公論新社から
「口奢りて久し」(定価1500円+税)
が出版されました。
5年程前に編集長をしていた
宮一穂さんが突然私のオフィスに見えて
「本当に久しぶりですけど、食の話を書いてくれませんか」
と申し出て下さったのです。
毎月、2頁だけ50回にわたって
牛のヨダレ式に書いたのが完結して
やっと一冊の本になったのです。

恒例によって抽選で
読者の皆さんに署名入りの単行本を10冊さしあげますので、
ご希望の方は申し込んで下さい。
何しろこの5年間、
中国大陸をかなり隅々までめぐり歩いたので、
期せずして中国各地で印象に残った料理や料理屋にまで
筆は及んでいます。
私の食の本のファンにとっては何十年ぶりの本なので、
食いしん坊の方は、選にもれた場合は、
ご足労でも書店まで一走りして下さい。
いくら不景気になっても、またいくら年輪を重ねても、
食に対する情熱だけは衰えるものではありません。
食に対する情熱が衰える時が人生の最後なんですから。


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