第1655回
千万の財を積むより手に職を
セールスという仕事も、
もちろん、プロの仕事です。
機械のセールスができたとしても
化粧品のセールスができるとは限りません。
またセールスができたとしても、
日本人が中国に行って
やとってもらえるとは限りません。
そんな職を見つけることなんかできるわけがないと
ハナから無視してかかる人の方が
むしろ多いでしょう。
新しい仕事を見つける場合、
会社を探がすよりも
プロの仕事を探がす方が容易です。
たとえば、デザイナにしても、コックにしても
探がす職場はデザインやコックの職場であって、
どこの会社であるかということと
あまり関係がありません。
そういう人を求める職場さえあれば、
どこの土地に行っても
仕事にありつくことができるからです。
こんなことは最近のことかと思っていたら、
昔々からずっと言われていることなんですね。
金言名句を選び出すために
中国の古代名句辞典をめくっていたら、
生産と経済という欄に
「積財千万、不如薄枝在身」
(千万の財を積むよりも手に職を持つに如くはない)
という文句にぶっつかりました。
顏氏家訓という北斉の時代の本に出てくる諺ですから、
お金よりも身についた技能の方が役に立つことは
今も昔も変わりはないのです。
お金はどんなにたくさん持っていても
なくなってしまう心配がありますが、
身についた職は生きている限り
メシのタネになるのです。
このことはもちろん、
どこにいても眞理でありますが、
知っている人のいない外国に行くと、
たちまちその眞価を発揮します。
大学を出たとか、
どこの会社につとめたことがあると言ったことよりは、
とんかつを揚げることができる、天ぷらがつくれる、
カレーライスができるという方が
メシの食いっぱぐれはないのです。
もし私なら外国に行く前に、
中国語の勉強をするよりも、
庖丁が握れるように腕のいい料理人について
半年ほど必死になって料理の修業をします。
どうしても駄目なら日本料理屋に駆け込めば、
餓死をしないですむことだけは確かですものね。
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