第1605回
生産基地は二度と日本へは戻ってきません
長い間の習慣で
一般の日本人はいまでも国のことを考えてから、
次に自分のことを考えます。
日本人の国としてのまとまりのよさは
そういうところから来ています。
けれども戦後の日本は
愛国心というタガできつく締めつけられていたのが
かなり弛んでしまいました。
国旗の掲揚を否定したり、
君が代を唱わないことを
教育の場で主張できる雰囲気ができたのと、
政府が新しくなってまだ何もやっていないうちに
早くも政府首脳を引きずりおろす運動がはじまっている
せっかちさのおかげで、
国の権威はガタ落ちになってしまったし、
政治家の人気に至っては
ホームレスよりひどいことになってしまいました。
それでも日本人は
国のことを第一に考えます。
自分が国のために
何一つやってあげられないことを恥じながらも、
国の将来について心配します。
みんな新聞はよく読んでいるし、
ニュースにはよく気をつけています。
右を向いても左を向いても暗いニュースばかりで、
国が財政的に行き詰まるのではないか、
個人の財産を封鎖するのではないかと心配します。
何しろバブルがはじけてから
もう十何年もたったのに、
一向に東の空が明るくなってくるきざしが
見えてこないのです。
日本人の立場から言えば、
誰でもいつかは
最盛期の日本が戻って来ないものかと夢見ます。
同じ日本人がやっていることだし、
お金もないわけでもないし、
技術も情熱も消えてなくなったわけではないのだから、
バブルよ、もう一度と言いたくもなります。
しかし、一度はじけて
うたかたと消えてなくなったものは残念ながら、
少くとも同じ形で戻ってきてはくれないのです。
どうしてかというと、
工業の世界的な生産基地としての有利な条件、
即ち低廉な賃金と安い通貨の国としての資格を
工業の高度化するプロセスで
ほぼ完全に失ってしまったからです。
私は15年も前からそのことを口を酸っぱくして
言い続けてきました。
でもほとんどの人が耳を傾けてくれませんでした。
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