第964回
安さだけではもたない商売がふえます
都市ホテルはどこも宴会のできるレストランを兼営しています。
景気のよかった頃は結婚式も盛大に行われていましたし、
社長の就仕披露や会社の記念祝賀会も
ホテルが使われていました。
宿泊設備がお金のかかっている割りに
日銭が稼げないのに比べると、
宴会場はホテルの最大の収入源でした。
宴会場が宿泊設備についているというよりは、
宴会場に宿泊設備もあったというのが
一流ホテルの実際の姿でしょう。
それに比べると、ビジネスホテルに泊るお客は
ビジネスホテルで夕食などしません。
地方から東京に出張するようなサラリーマンは、
大抵、東京本社や取引先にご馳走の貸しがあります。
東京の人が地方に来た時、ご馳走をしているからです。
そういう人は出張する前から東京に電話して
いついつ行くからと会う時間の約束をしています。
東京で地方から出て来た人を歓迎するのに、
向うの泊っているホテルのみすぼらしいレストランを
選ぶわけもありません。
はたして宿泊客は夜も利用しないだけでなく、
朝でさえギリギリまで寝ていて朝飯も食べない人が多いのです。
3人や5人のために朝食の用意をするわけに行かないので、
朝食のお安い隣接する喫茶店を利用してもらうように
切りかえました。
それでもビジネスホテルの地下に
レストランのスペースがありましたので、
考えた末にシャンソンをきかせる中華料理店をつくりました。
キュービック・プレイハウスと名づけて、
淡谷のり子さん、深緑夏代さん、美輪明宏さん、
美川憲一さんたちに毎晩歌ってもらいました。
のちに有名になった金子由香利さんもここの常連歌手でした。
あの時の経験からすると、ビジネスホテルは
財布の紐を締めてかかる人相手の商売でしたが、
キュービック・プレイハウスは
シャンソン好きの集まる店でした。
とびっきり高いわけではありませんが、
安さでお客を釣る商売でもありません。
デフレになると安さで釣る商売の方が
却ってやって行けなくなるのは、
そういう商売のやり方をする人が多いからです。
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