第897回
日本人もやがてニンニク族の仲間入り
いまから45年くらい前に
私は「ニンニクの孤独」と題したエッセイを
「あまカラ」という雑誌に書いたことがあります。
このエッセイは「象牙の箸」という本に集録されて、
中央公論社から単行本として発行され、
或る時、向田邦子さんに会ったら、
「私はそらんずることができるほど愛読していますの」と
挨拶されたことがあります。
ニンニクほど臭いものはない、
しかし、ニンニクほどうまいものはないと言われています。
ニンニクを臭いと思う人はニンニクを敬遠しますが、
ニンニクをうまいと感ずる人は
ニンニクの臭味が気にならなくなります。
しかし、ニンニクを使って料理をするようになれば
すぐにもわかることですが、
ニンニクはフライパンの中で油を熱くして
その中に入れて焦がすと、
一瞬にして臭味が消えてまたとない芳香に変わります。
大半の中華料理の楽しさはニンニクか、
干葱を焦がしたベースから生み出されるものです。
ただニンニクが好きな人は
ニンニクの臭味が気にならなくなるので、
人がどう思おうとさして気にしなくなります。
或る時、ソウルに着いたら、
三星物産の創業者の李乗さんが
自分の車を迎えにさし向けてくれました。
運転手がドアをあけた途端に
生ニンニクの強烈な匂いが中から流れ出してきたので、
一瞬たじろいだことがあります。
でも私はニンニクを食べる国の人に属していたので、
なるほどと頷いてそんなに逃げ腰にはなりませんでした。
その点、日本人はニンニクを食べない民族ですから、
長い間、ニンニクには馴染めないできましたが、
それがいつの間にかキムチにも親しむようになり、
焼肉のタレの中のニンニクにも
拒否反応をしめさないようになりました。
スーパーでもニンニクを売るようになっていますが、
日本のスーパーで売っているニンニクを見ると、
白くて柔かくてあまり匂いのしない山東省産どまりです。
ニンニク族としてはまだ駆け出しというところですね。
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